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# 『全盲の弁護士 竹下義樹』
2020/01/04 14:21
全盲の弁護士 竹下義樹 小林照幸 岩波現代文庫 2019年



中学生の時に視力を失い、その後日本初の全盲の弁護士として活躍している竹下義樹氏。大学受験に挑戦し、大学在学時に法務省に請願して司法試験の点字受験を実現させるまでは、死闘とも言える日々を過ごした。9回目の受験で合格率2%未満の難関を突破して弁護士となった後は、弱者の声を拾って法廷に届けるという信念を貫き、多忙な生活を送っている。そんな彼の人生を記録したのが本書だ。単行本の刊行からおよそ15年の日が経過したのを受けて、文庫版のあとがきでは平成後半から令和にかけての活躍ぶりも書かれている。

読んでいて、圧巻とはこのようなことを言うのかと思った。竹下氏の幼少期から始まり、全盲となった当時の様子、大学受験、司法試験受験、司法修習生としての日々、弁護士として活躍など、苦難の中にも支えになってくれる人を得ながら困難を乗り越えていく姿が鮮やかに書かれていて、読み始めるとページをめくる手が止まらない。

特に社会保障をめぐる訴訟では、竹下氏が弁護団を率いて社会史に残る画期的な判例を残していった事件が多い。時に依頼者は、他の弁護士では無理だと言われた案件を藁にも縋る思いで依頼してくることもある。画期的な判例の背景には、竹下氏が依頼者の言葉にじっと耳を傾け、自分が何とかしなければという責任感に燃え、依頼を引き受けていったという姿があった。社会保障をめぐって自治体を相手取った裁判や、暴力団の組長に使用者責任を問う裁判は、一読者としても手に汗握るしびれるような展開である。
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# 『考える障害者』
2018/03/25 16:59
考える障害者 ホーキング青山 新潮新書 2017年



2016年から、障害者差別解消法が施行され、さらにはパラリンピックへの注目度も高まり、障害者に対する社会の見方は少しずつ変化しているように思える。しかし、ずっとお笑いの世界で、何となく社会からはタブーとされているような障害者をネタにした芸に挑み続けてきた筆者からすると、障害者に対する議論は、極論や遠慮がちな物言いが多く、どこか釈然としない。そんな思いから綴られたのが本書である。

障害者に対して、どこまで社会的な資源を使うべきか。24時間テレビやバリバラは何が問題なのか。そして、障害者の存在意義についてはどう考えればよいのか。筆者は、本書の中で明確な結論にはたどり着いていないが、これらの問題について当事者の立場だからこそ語れる言葉と視点で、考えあぐねる。本書で挙げられたテーマのどれもが、社会において深く議論することが避けられてきたものである。その分野に、筆者は果敢に挑んでいく。

さすがの言葉の名手とあって、筆者の語りは滑らかで、読み手はどんどん読んでいける。しかし、そのスピード感とは裏腹に、それぞれの問題は、議論すればそのための時間がいくらでも必要となるであろう。私自身、答えの見つからない問題を前にして、茫然たる思いにもなった。でも、これだけは言える。読後は筆者の語りが私の頭の中を巡り、どこか今までとは違う発想や思考で満たされ、障害者について考えるための1つの道筋を得た。

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# 『辻井伸行 奇跡の音色 恩師との12年間』
2017/08/01 23:18
辻井伸行 奇跡の音色 恩師との12年間 神原一光 文春文庫 2013年



世界的ピアニストである辻井伸行さんが唯一恩師として挙げる存在が、小学校1年生の時から12年間ピアノを指導し、彼のピアニストとしての土台を築いた存在である川上昌裕氏である。ウィーンへの留学経験もあり、確かな実力を持った川上氏だったが、25歳の時にショパン・コンクールに落選し、その後はコンクールを受け続けたものの、思うような結果は得られていなかった。そんな矢先に飛び込んできたのが、帰国して東京音大で教えつつ、辻井伸行さんの指導もするという話であった。視覚障害者へのピアノ指導はまったく経験のなかった川上氏であったが、試行錯誤の末に編み出した手法や、ウィーン留学で経験したヨーロッパ流の指導法などが辻井伸行さんの才能を見事に引き出し、彼を世界的なピアニストへと成長させていくのであった。

本書は、NHKのディレクターがかつて放送された番組の内容を書籍の形にまとめたものである。川上氏の音楽に真摯な姿勢や、本質を見極めつつ常識にとらわれない発想で指導に当たる様子は、視覚障害者教育という領域を超え、教育において大事なことは何かということを考えるきっかけとなる。氏の指導はまさに全身全霊をかけての指導であった。楽譜の内容を音声でまとめた「譜読みテープ」の作成、コンクールへの付き添いなど、全盲のピアノ好きな少年を世界のTSUJIIと呼ばれるまでに成長させた教育者としての力には脱帽する。

私が特に印象に残っているのは、辻井さんの演奏法に対する川上氏の考え方だ。見えた経験のない辻井さんの演奏の仕方は、一般的に見るとかなり特異な面を持つ。しかし、川上氏はその演奏法の裏に視覚障害者なりの工夫と、辻井さんならではの個性を感じ取り、オリジナリティとして尊重するという方針を取ったのだ。これは、常識にとらわれない発想ができ、なおかつピアノという楽器に関する確かな専門性を持った人でなければ成し得ないことであろう。川上氏は、演奏家としては悲運の人生を辿った人物かもしれないが、指導者としてはこれ以上ないほど素晴らしい人物だったのではないだろうか。

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# 『今日の風、なに色?』
2017/07/27 21:22
今日の風、なに色? 辻井いつ子 アスコム 2004年



全盲のピアニスト、辻井伸行さんの母、いつ子さんによる子育てエッセイ。息子誕生の瞬間から、子どもの目が見えないことへの不安、子どもが持つ音楽の才能によって見えた一筋の光、良き指導者との出会いなど、当時書いていた日記の記述を基にまとめている。全盲の子どもを育てるゆえの苦労、だからこそ得られる感動や喜びについて余すことなく綴られていて、心動かされる。

いつ子さんの子育てで特筆すべき点は、あくまで子どもの個性を尊重し、伸ばすという視点に立った教育をしてきたところである。軸がそこにあるからこそ、時に視覚障害者の育児では当たり前と思われている常識にとらわれないこともある。個性を信じて伸ばすことを実践し続けてきたからこそ、天才ピアニスト、辻井伸行さんが育ったのだと納得がいく。

迷ったことや苦しいと思ったことも、当時の日記の生々しい記述からとてもよく伝わってくる。時に悩みながら子供とともに歩んできた日々の記録から学べることは多い。

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# 『目の見えないアスリートの身体論 なぜ視覚なしでプレイできるのか』
2016/09/18 16:36
目の見えないアスリートの身体論 なぜ視覚なしでプレイできるのか 伊藤亜紗 潮新書 2016年



今年は、オリンピック・パラリンピック開催の年ということで、いつもより障害について知る機会が多い。本書は、その中で特に視覚障害の分野に絞って、アスリートたちがいかに身体を使っているのか、インタビューの中から見出していくものである。

本書で扱われる視覚障害スポーツの中には、サッカーや陸上、水泳という晴眼者にも馴染みのスポーツを視覚障害者用にルール変更した競技と、視覚障害者以外にはあまり馴染みのないゴールボールという競技がある。出場する選手へのインタビューを通して見えてくる、視覚障害スポーツならではの独自のルールや、アスリート達の独自の身体の使い方に迫る。

あくまで、視覚を利用できないということは、競技の中での「制限」であって、「障害」とは捉えないのが、本書の立場。そうすることで、視覚以外の感覚にはどんな使い道があるのか、意外な事実がわかってくるのが、本書の醍醐味である。

競技中は、限られた範囲のフィールドで、明確なルールのもとで動くので、一見ぶつかったり転んだりといった危険に曝されているスポーツも、街中と比べればはるかに予測可能で危険が少ないという。この考え方は新鮮でかつ、なるほどと思ったものだ。各競技の簡単な解説があるのも、役に立つ。

結果的には、本書に登場する選手の中からリオデジャネイロ大会メダリストが生まれることとなった。彼らのインタビュー記録という貴重な資料の役割も担うことになった。

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# 『指と耳で読む ―日本点字図書館と私―』
2016/02/19 17:07
指と耳で読む ―日本点字図書館と私― 本間一夫 岩波新書 1980年



東京、高田馬場の地には、日本点字図書館という施設がある。全国の視覚障害者に向けて点字図書や録音図書の貸し出しを行っている。本書は、その日本点字図書館の創設の中心にいた人物、本間一夫氏が自らの人生を振り返り、点字図書館と共に歩んできた日々について語った伝記である。

幼少期の失明経験から始まり、盲学校時代、大学時代、そして点字図書館の拡充期に至るまでの過程には、幾何の困難があり、一方で様々な人の支えがあったことがひしひしと伝わる。特に戦争に向かって物資が不足し、人々の生活や心にも余裕がなくなっていった時代でも、必死に図書館を守りぬいた著者の姿勢と、ひたむきに点訳に取り組んでいったボランティアの方々の姿勢には、本当に頭の下がる思いである。

驚きなのは、視覚障害者への図書提供という極めて公共的な性格を持ったこの事業が、初めは何ら国からの援助もなく始まった点であろう。草の根レベルから立ち上がった事業が徐々に世間に認知され、国からの予算も付くようになった過程に関わった人々の功績は、まさに奇跡と呼べるのではないだろうか。

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# 『〈できること〉の見つけ方― 全盲女子大生が手に入れた大切なもの ―』
2016/01/05 10:46
〈できること〉の見つけ方― 全盲女子大生が手に入れた大切なもの ― 石田由香理・西村幹子 岩波ジュニア新書 2014年



「周囲の人を引き付ける不思議な人間力を持っている」とは、大学の先生が著者の石田さんについて推薦状の中で書いた文言であるそうだ。本書を読んでいると、その言葉にも納得がいく。教育熱心な家庭に生まれ、優秀な兄、姉と比較されて何もできないと言われ続けた家庭での日々、中高時代の思い出、辛かった浪人時代、大学入学後に感じた周囲との壁、そして、フィリピンへの渡航をきっかけに手にした、必要とし、必要とされることの価値といった、著者の半生(というよりも現時点での全人生)を形作るに至ったことを語る筆致には、読む者を掴んで離さない魅力がある。

障害を持つと、どうしても周囲の人に頼らざるを得ない場面が多くなる。石田さんがずっともどかしさを感じていたことは、周囲に助けられる代わりに、自分には何ができるのかという問いに対する答えが見つからないことであった。しかし、互いに支え合う、必要とし必要とされる関係を築く経験を重ねるにつれ、石田さんという人間に変化が生まれた。

障害に限らず、社会に生じる不平等を扱うのに必要な視点は、援助や支援といった、いわば上から目線のものでは不十分で、皆が相互に与え合う関係を作れる環境を整え、不平等を生じさせている社会の仕組みを見直していくことであると、共著者の西村先生は結ぶ。真の意味での平等、対等、公平とは何か。すぐには答えの見出せない問いへと向かっていかなければならないと意識させられる。

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# 『目の見えない人は世界をどう見ているのか』
2016/01/04 00:28
目の見えない人は世界をどう見ているのか 伊藤亜紗 光文社新書 2015年



視覚障害者と晴眼者の間には、世界の把握の仕方にどのような違いがあるのだろうかというテーマに関して、身体論の観点から切り込んでいった本。全体に通じているのは、視覚に頼らないからこそ晴眼者とは違った身体の使い方や、思いもよらぬ物の見方をしているのが視覚障害者であるという考え方だ。そして、そのような視点を面白いと感じることで、晴眼者にとっては「見る」という行為の意味が問い直されていくのだ。果たして、人間は視覚のみに頼って「見る」という行為を行っているのか。視覚で得た情報は「百聞は一見に如かず」と言えるほどに信頼を置けるものなのか。本書で紹介される視覚障害者の空間把握や運動の方法を知っていくにつれ、無意識のうちに抱えていた視覚優位の発想に対して次々と疑問符が打たれていく。

障害を抱えた人が生きやすい社会にするには様々な支援が欠かせないのは当然のことと認めつつ、筆者は最後に大切な視点を提示する。それは、障害者と健常者の違いを埋めようとするのではなく、違いを面白いと感じ、うまく活かしていく社会の重要性である。常に健常者が何かをしてあげて、障害者にも同じことができるようにするという発想をしていては、本当の意味での共生はできないのではないだろうかと、筆者は訴えかける。本書で取り上げられている、絵画を言葉で表現して作品の意味を探る試みなどは、まさに視覚障害者と晴眼者が同じ土俵でそれぞれの特長を活かして創造的な活動をする取り組みである。

哲学的な観点から述べる身体論というと、何だか取っつきにくいという印象である。しかし、視覚障害を分析の道具に使うことで、人間の知覚に関する新たな見方を得られ、さらには共生社会のあるべき姿まで考える材料を得られる。人文社会系の学問を軽視するという昨今の風潮に対して、文系の学問の意義はここにありきと示せる価値ある1冊だ。

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# 『不可能を可能に 点字の世界を駆けぬける』
2015/12/29 14:25
不可能を可能に 点字の世界を駆けぬける 田中徹二 岩波新書 2015年



20代で失明し、様々な人との出会いを経験し、やがて日本点字図書館の館長となった方によるエッセイ。晴眼者の立場からは見えてこない世界に暮らす人として日々感じることや、日本点字図書館の歴史、そこで働く人やボランティアの方々の活躍にまで触れている。

晴眼者からは思いもよらないような視点や苦労がとてもよく伝わってくる。駅のホーム転落防止柵がいかに重要であるか、駅前の放置自転車が視覚障害者にとってどれほど迷惑なものであるかなど、その立場の人からの言葉には重みがある。特に、放置自転車の列を倒してしまったときに感じるイライラ、そのせいで手伝ってくれた人に対しても素直にお礼を言えなくなってしまうもどかしさについて述べていた個所は印象的であった。

日本は何となく欧米、特に北欧の国々と比べて福祉面に遅れのある国という印象があったが、著者によれば、日本の視覚障害者に対する配慮は世界の中でもトップクラスだという。特に、電車の駅のホーム転落防止柵や、点字ブロックといった設備は世界でも有数の充実ぶりだという。点訳の作業は圧倒的にボランティアに頼っているなど、まだまだ不十分なことはいくらでもあるだろうが、日本の福祉についてまた新たな見方を得たように思う。

著者はもう80歳くらいの方であるが、そうとは思えないほどに情報技術に対する情熱を持っていて、使える技術は何とかして役立てようという意欲には感服する。実際、本書も音声画面読み上げソフトというものを用いてほぼ一人で書き上げたものである。人工知能の発達により、情報技術がすさまじいスピードで進歩している現在こそ、その技術を視覚障害者のために用いる方法を見つけ出す人材も求められているように感じた。

日本点字図書館の発展にまつわる話や、途上国支援の話など、その他内容は多岐にわたる。著者がここまで視覚障害者として生きてきた経験や軌跡がいっぱいに詰まった内容に、心を震わされた。

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