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# 『辻井伸行 奇跡の音色 恩師との12年間』
2017/08/01 23:18
辻井伸行 奇跡の音色 恩師との12年間 神原一光 文春文庫 2013年



世界的ピアニストである辻井伸行さんが唯一恩師として挙げる存在が、小学校1年生の時から12年間ピアノを指導し、彼のピアニストとしての土台を築いた存在である川上昌裕氏である。ウィーンへの留学経験もあり、確かな実力を持った川上氏だったが、25歳の時にショパン・コンクールに落選し、その後はコンクールを受け続けたものの、思うような結果は得られていなかった。そんな矢先に飛び込んできたのが、帰国して東京音大で教えつつ、辻井伸行さんの指導もするという話であった。視覚障害者へのピアノ指導はまったく経験のなかった川上氏であったが、試行錯誤の末に編み出した手法や、ウィーン留学で経験したヨーロッパ流の指導法などが辻井伸行さんの才能を見事に引き出し、彼を世界的なピアニストへと成長させていくのであった。

本書は、NHKのディレクターがかつて放送された番組の内容を書籍の形にまとめたものである。川上氏の音楽に真摯な姿勢や、本質を見極めつつ常識にとらわれない発想で指導に当たる様子は、視覚障害者教育という領域を超え、教育において大事なことは何かということを考えるきっかけとなる。氏の指導はまさに全身全霊をかけての指導であった。楽譜の内容を音声でまとめた「譜読みテープ」の作成、コンクールへの付き添いなど、全盲のピアノ好きな少年を世界のTSUJIIと呼ばれるまでに成長させた教育者としての力には脱帽する。

私が特に印象に残っているのは、辻井さんの演奏法に対する川上氏の考え方だ。見えた経験のない辻井さんの演奏の仕方は、一般的に見るとかなり特異な面を持つ。しかし、川上氏はその演奏法の裏に視覚障害者なりの工夫と、辻井さんならではの個性を感じ取り、オリジナリティとして尊重するという方針を取ったのだ。これは、常識にとらわれない発想ができ、なおかつピアノという楽器に関する確かな専門性を持った人でなければ成し得ないことであろう。川上氏は、演奏家としては悲運の人生を辿った人物かもしれないが、指導者としてはこれ以上ないほど素晴らしい人物だったのではないだろうか。
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