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# 『発達障害に気づかない大人たち』
2010/11/27 11:17
発達障害に気づかない大人たち 星野仁彦 祥伝社新書 2010年



近年、子どもの発達障害が問題化している。なぜ、近年になって急激に問題化しているかについては、諸々の理由があろうが、発達障害への理解が深まり、「発見」されやすくなったということは、十分考えられよう。では、かつて「発見」されずにそのままになってしまった場合は、どうなるのか。本書では、発達障害が見過ごされたまま大人になり、生活上様々な困難を抱える人々に焦点を当てた本だ。仕事でのミスが多かったり、コミュニケーションが苦手だったり、落ち着きが無かったりといった大人は、実は発達障害なのかもしれない。発達障害の特徴について丁寧な解説があるとともに、その対策、家族や社会の支援策、共生への道が示されている。


本書を読んでみて、まるで自分もことについて書いてあると思う場合、学校のクラスメイト、職場の同僚に思い当たる人がいると思う場合、それぞれであろう。もしあの時、あの人が発達障害である可能性を考えていれば、もっとうまく対応できたかもしれないなどと、自責の念に駆られる人もいるかもしれない。案外発達障害は身近にあるということが、非常によくわかる。

そして、筆者が繰り返し主張するのは、周囲の人間の協力が大切であるという点である。接し方を工夫したり、本人の特徴を理解することで、発達障害の人は、思わぬ能力を発揮することがある。学校側の適切な指導、就労にあたっての適切な助言、職場の理解も、本人が力を発揮するための大事な要素である。「発達障害」という枠組みを与えることで、本人及び周囲がそれに相応しい行動を取れるようになるという面はある。しかし、その一方で、個々の違いが無視されてしまう危険はある。同じ発達障害でも、本人の養育環境や性格、興味関心の違いによって、千差万別だ。そして、これは発達障害に限らず、すべての人にとって言えることだ。それならば、「個々の特性を本人や周囲が十分に把握し、本人が力を存分に発揮しつつ、社会に適応・貢献していけるようにする」という支援を社会全体で強めていき、ある意味でバリアフリーな支援が可能な社会を目指す方が良いのではないだろうか。

また、学業や芸術など、専門性の強い方面での活躍を期待するならば、大学に通ったり、音楽を習ったりと、それ相応の訓練が必要だ。幼い時期からの訓練が必要な分野は、相当の資金が必要だ。その負担をどうするのかについても、再考の余地があろう。仮に芸術方面での才能があったとしても、それを発揮できる環境がなければ、話にならない。支援に関する問題は山積している。
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# 『文章を理解するとは 認知の仕組みから読解教育への応用まで』
2010/01/24 15:15
文章を理解するとは 認知の仕組みから読解教育への応用まで 甲田直美 スリーエーネットワーク 2009年



人間の文章理解について、主に心理学の知見を中心にまとめた本。
人間の記憶や認知の仕組みについてわかっていることを基に、人間が文章を理解するとき、何が起こっているのか、理解の個人差にはどのような要因があるのかについて考察していく。

人間は、どのようにして文章を理解しているのだろうか。この問いに密接に関連している学問分野は、いくつかある。言語学は、文章に使われていることば、文法、情報の並べ方などに関する成果を蓄積してきた。情報工学や人工知能の分野は、コンピュータによる言語処理という視点から、言語の特性に迫ってきた。英語教育や国語教育は、おそらくこの問題を見逃すことのできない分野であろう。

では、心理学は、これまでこの問いにどう答えてきたのだろうか。心理学は、文章を読解する主体である読者の頭の中で何が起こっているのかに注目してきた。例えば、人間は時に間違った推論をする。記憶には限界がある。それでいて、自分の持っている知識をフルに活用して物事を理解するという、(機械と比べると)かなり高度な技もやってのける。文章を読むという行為は、人間の思考と深く関わっているため、人間の思考を研究してきた心理学の貢献は大きい。

本書は、文章理解に関する心理学的な話題を、大変幅広くまとめている。各話題では、興味深い実験データが紹介され、具体的に理解できる。また、基礎研究の分野に留まらず、読解教育への応用という視点を取り入れた研究も取り上げられている。例えば、どんな図が理解の助けになるのか、読解の材料は、読みやすければ読みやすいほど良いのかなど、素朴な疑問に対して行なわれた研究も扱われている。

文章の理解に対して、これまで心理学がどう解答を与えてきたのか。他の分野の人にとっても興味深い本であろう。

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# 『フリーターの心理学 ― 大卒者のキャリア自立』
2009/12/10 13:06
フリーターの心理学 ― 大卒者のキャリア自立 白井利明・下村英雄・川﨑友嗣・若松養亮・安達智子 世界思想社 2009年



フリーターについて、心理学の立場から迫った本。正社員とフリーターでは、キャリア意識や時間的展望、価値観に違いがあるのだろうか。本書では、8500人もの大卒者を対象とした調査を行い、フリーターの実態と今後の課題について考える。

本書を読んで感じるのは、フリーターと一口に言っても、その実態は実に多様であり、複雑であるということだ。大卒のフリーターのみを対象としたとはいえ、男女、既婚未婚、子どもの有無、卒業した大学の難易度など、様々な要因が影響し、本人のキャリア観や現在の生き方に影響している。それぞれの調査で、一定の傾向が現れることはあっても、むしろフリーターの多様性を示す結果ともなっている。

興味深かったのは、キャリア・コンストラクション理論という考え方である。この理論では、人間は一様なキャリア発達を見せるのではなく、自らの置かれた文脈に影響を受けながらキャリアを形成していくという考え方である。労働市場の流動化や多様化が進む中、個人個人が歩む道は、ある1つの規範によっては決められなくなっている。社会と個人のダイナミックな作用に焦点を当てた見方がますます重要になるだろう。

本書の対象は大卒者である。しかし、社会において問題となっているフリーターの中には、低学歴の層が少なからず存在する。そして、彼らこそ、本当に正規雇用への道が閉ざされ、未来が見えない状態にあるのではないだろうか。中卒や高卒のフリーターについても、本書の理論は当てはまるのか。また、それに関連して、経歴の異なったものに対して、支援は同じで良いのだろうか。フリーターの実態把握は、今後も重要な課題として取り上げられるべきであろう。

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# 『言語発達ってみんな同じ? 言語獲得の多様性を考える』
2009/11/30 10:03
言語発達ってみんな同じ? 言語獲得の多様性を考える C.M.ショアー 佃一郎監訳 岩田光児・岩田まな 学苑社 2009年



一般的に、言語発達は、一語だけを発話する段階から、徐々に単語数を増やし、最終的には文の形式に到達すると考えられている。その考え方が主流であるゆえに、言語発達の指標は、名詞をどれだけ知っているかという観点に絞られやすい。しかし、実際、言語発達はそれほど単純には語れない。本書では、もうひとつの言語発達のパターンについても触れ、言語発達の個人差に迫る。

言語発達には、様々な要因が関係していて、個人差を生むのだということがわかる。特に、名詞を並べて発話するタイプだけでなく、典型的な形式を真似して覚えようとするタイプもいるというのは興味深い。思えば、第二言語の習得においても、単語の並べ替えによって何とか意味を伝えようとするタイプと、幅広く使える典型表現を少し改変して多くの状況に適用しようというタイプがある。それと似たように考えればよいのだろうか。

しかし、言語発達の個人差に関する諸相は、それほど単純には語れないとするのが、本書の立場。子どもによって、おおまかには2つのタイプがあるとはいえ、状況や学習内容によってはひとりの子どもが両方のタイプをうまく取り入れるケースもあるという。また、たとえ遺伝的にはまったく同じといえる一卵性双生児であっても、言語発達の過程は同一とは到底言えない現実があるそうだ。カオス理論に従えば、ほんの少し初期値の違いがあるだけで、まったく予想もつかない結果が生まれることも考えられるという。

原書は1995年発行と、やや古い本ではあるが、訳者が言っているように、そこで言われていることには古さは感じられない。現在、最新の理論では、言語発達の個人差がどのように説明されているのかについての興味もそそられる。

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