フリーターの心理学 ― 大卒者のキャリア自立 白井利明・下村英雄・川﨑友嗣・若松養亮・安達智子 世界思想社 2009年
フリーターについて、心理学の立場から迫った本。正社員とフリーターでは、キャリア意識や時間的展望、価値観に違いがあるのだろうか。本書では、8500人もの大卒者を対象とした調査を行い、フリーターの実態と今後の課題について考える。
本書を読んで感じるのは、フリーターと一口に言っても、その実態は実に多様であり、複雑であるということだ。大卒のフリーターのみを対象としたとはいえ、男女、既婚未婚、子どもの有無、卒業した大学の難易度など、様々な要因が影響し、本人のキャリア観や現在の生き方に影響している。それぞれの調査で、一定の傾向が現れることはあっても、むしろフリーターの多様性を示す結果ともなっている。
興味深かったのは、キャリア・コンストラクション理論という考え方である。この理論では、人間は一様なキャリア発達を見せるのではなく、自らの置かれた文脈に影響を受けながらキャリアを形成していくという考え方である。労働市場の流動化や多様化が進む中、個人個人が歩む道は、ある1つの規範によっては決められなくなっている。社会と個人のダイナミックな作用に焦点を当てた見方がますます重要になるだろう。
本書の対象は大卒者である。しかし、社会において問題となっているフリーターの中には、低学歴の層が少なからず存在する。そして、彼らこそ、本当に正規雇用への道が閉ざされ、未来が見えない状態にあるのではないだろうか。中卒や高卒のフリーターについても、本書の理論は当てはまるのか。また、それに関連して、経歴の異なったものに対して、支援は同じで良いのだろうか。フリーターの実態把握は、今後も重要な課題として取り上げられるべきであろう。
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