発達障害に気づかない大人たち 星野仁彦 祥伝社新書 2010年
近年、子どもの発達障害が問題化している。なぜ、近年になって急激に問題化しているかについては、諸々の理由があろうが、発達障害への理解が深まり、「発見」されやすくなったということは、十分考えられよう。では、かつて「発見」されずにそのままになってしまった場合は、どうなるのか。本書では、発達障害が見過ごされたまま大人になり、生活上様々な困難を抱える人々に焦点を当てた本だ。仕事でのミスが多かったり、コミュニケーションが苦手だったり、落ち着きが無かったりといった大人は、実は発達障害なのかもしれない。発達障害の特徴について丁寧な解説があるとともに、その対策、家族や社会の支援策、共生への道が示されている。
本書を読んでみて、まるで自分もことについて書いてあると思う場合、学校のクラスメイト、職場の同僚に思い当たる人がいると思う場合、それぞれであろう。もしあの時、あの人が発達障害である可能性を考えていれば、もっとうまく対応できたかもしれないなどと、自責の念に駆られる人もいるかもしれない。案外発達障害は身近にあるということが、非常によくわかる。
そして、筆者が繰り返し主張するのは、周囲の人間の協力が大切であるという点である。接し方を工夫したり、本人の特徴を理解することで、発達障害の人は、思わぬ能力を発揮することがある。学校側の適切な指導、就労にあたっての適切な助言、職場の理解も、本人が力を発揮するための大事な要素である。「発達障害」という枠組みを与えることで、本人及び周囲がそれに相応しい行動を取れるようになるという面はある。しかし、その一方で、個々の違いが無視されてしまう危険はある。同じ発達障害でも、本人の養育環境や性格、興味関心の違いによって、千差万別だ。そして、これは発達障害に限らず、すべての人にとって言えることだ。それならば、「個々の特性を本人や周囲が十分に把握し、本人が力を存分に発揮しつつ、社会に適応・貢献していけるようにする」という支援を社会全体で強めていき、ある意味でバリアフリーな支援が可能な社会を目指す方が良いのではないだろうか。
また、学業や芸術など、専門性の強い方面での活躍を期待するならば、大学に通ったり、音楽を習ったりと、それ相応の訓練が必要だ。幼い時期からの訓練が必要な分野は、相当の資金が必要だ。その負担をどうするのかについても、再考の余地があろう。仮に芸術方面での才能があったとしても、それを発揮できる環境がなければ、話にならない。支援に関する問題は山積している。
PR