文章を理解するとは 認知の仕組みから読解教育への応用まで 甲田直美 スリーエーネットワーク 2009年
人間の文章理解について、主に心理学の知見を中心にまとめた本。
人間の記憶や認知の仕組みについてわかっていることを基に、人間が文章を理解するとき、何が起こっているのか、理解の個人差にはどのような要因があるのかについて考察していく。
人間は、どのようにして文章を理解しているのだろうか。この問いに密接に関連している学問分野は、いくつかある。言語学は、文章に使われていることば、文法、情報の並べ方などに関する成果を蓄積してきた。情報工学や人工知能の分野は、コンピュータによる言語処理という視点から、言語の特性に迫ってきた。英語教育や国語教育は、おそらくこの問題を見逃すことのできない分野であろう。
では、心理学は、これまでこの問いにどう答えてきたのだろうか。心理学は、文章を読解する主体である読者の頭の中で何が起こっているのかに注目してきた。例えば、人間は時に間違った推論をする。記憶には限界がある。それでいて、自分の持っている知識をフルに活用して物事を理解するという、(機械と比べると)かなり高度な技もやってのける。文章を読むという行為は、人間の思考と深く関わっているため、人間の思考を研究してきた心理学の貢献は大きい。
本書は、文章理解に関する心理学的な話題を、大変幅広くまとめている。各話題では、興味深い実験データが紹介され、具体的に理解できる。また、基礎研究の分野に留まらず、読解教育への応用という視点を取り入れた研究も取り上げられている。例えば、どんな図が理解の助けになるのか、読解の材料は、読みやすければ読みやすいほど良いのかなど、素朴な疑問に対して行なわれた研究も扱われている。
文章の理解に対して、これまで心理学がどう解答を与えてきたのか。他の分野の人にとっても興味深い本であろう。
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