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# 『神様のファインダー 元米従軍カメラマンの遺産』
2018/02/11 20:58
神様のファインダー 元米従軍カメラマンの遺産 写真:ジョー・オダネル、編著:坂井貴美子 フォレストブックス 2017年



終戦間もない日本に降り立った従軍カメラマンのジョー・オダネル氏は、広島・長崎の風景を撮影する中で、戦後の惨状を目撃し、アメリカの原爆投下を疑問視するようになっていった。悲惨な風景を2度と思い出したくないという思いから、撮影した写真を封印していたオダネル氏だったが、後に写真を公開し、反原爆の思いを伝える活動を続けていくのだった。
本書は、そんなオダネル氏の活動を彼の写真とともに振り返り、記録に残そうという試みのもと書かれた。オダネル氏は2007年8月9日に亡くなった。長崎への原爆投下の日と重なるところに、運命すら感じてしまう。アメリカ人として反原爆を訴え続けた人物として、オダネル氏が果たした役割は大きい。そんな彼の偉業をたたえて、死後10年の日に発売された本書を読むのは意義深いのではないだろうか。
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# 『23区大逆転』
2017/10/08 11:37
23区大逆転 池田利道 NHK出版新書 2017年



かなりの話題となった『23区格差』の著者による、新たな東京23区に関する分析を行った本。東京の23区に人口の集中が起こっている現在、新たな動きが着々と進んでいるという。かつてのような西部山の手地域と東部地域の間にあった格差が縮まったり、ブランド感のなかった区の住民が自らが暮らす地域に誇りを持ち始めたりと、少しずつだが確実に、変化は起きている。

本書は、暮らすという視点や働くという視点から改めて23区の実態を見直し、それぞれの区が抱える問題と、その問題を乗り越えるシナリオについて述べていく。そして、最終的に行き着くところは、間もなく迎えることになる東京オリンピック・パラリンピックを機に、いかにレガシーと言えるだけのものを残せるかという戦略についての話題だ。コンセプトなきオリンピックに向けて、漠然とした取り組みをしながら経済効果を夢見ているようでは、先が思いやられる。

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# 『フードバンクという挑戦 貧困と飽食のあいだで』
2017/10/08 11:11
フードバンクという挑戦 貧困と飽食のあいだで 大原悦子 岩波現代文庫 2016年



まだ十分に食べられるにもかかわらず捨てられている食料を、必要としている人のもとへと届ける活動が、フードバンクである。本書は、アメリカで誕生したフードバンクの概要、それを日本で普及させるべく尽力した2HJの活動を紹介し、さらにはそこから見えてくる日本の貧困問題、NPOという組織のあり方、ボランティア活動のあるべき姿と、多岐にわたる話題を提供する。

「食べ物を必要としている人のもとへ」という活動が持つ問題意識や抱えている問題点を見ていくにつれて、フードバンクが乗り越えようとする問題は、決して食の問題だけではないことがわかる。そして、バックにとてつもなく大きな、解決が難しい問題があっても、とにかく現場でできることをしようとフードバンクの活動に携わる人々の姿を知ると、勇気が湧いてくる。

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# 『人の心は読めるか? 本音と誤解の心理学』
2017/09/09 16:55
人の心は読めるか? 本音と誤解の心理学 著/ニコラス・エプリー 訳/波多野理彩子 ハヤカワ文庫 2017年



本書では、まず人間の心を読むという行動について、様々な心理学実験の成果を通して考察が行われる。親しい人のことならよくわかるか、他人のことならともかく自分のことならよくわかっているか、相手の立場に立とうとすると他人の気持ちを想像しやすくなるか…これらの疑問に対する答えは、残念ながらノーである。主に社会心理学の分野で行われてきた実験の成果から考えるに、人間は自分が思っている以上に他者の心理を理解できないもので、直感的な能力は信用できないというのが、筆者の結論だ。この結論に至るまでに紹介されている数々の実験結果は非常に興味深く、知的好奇心を刺激するものばかりだ。しかし、それで終わりにならないのが本書の素晴らしいところだ。このような研究結果を踏まえて、どうすれば他者との行き違いや誤解を減らし、可能な限り円滑なコミュニケーションを行えるのかについて、筆者なりの解決策(あるいは他者とのコミュニケーションで生じやすい傾向を理解して行動する方法)が提示されているのだ。

人間の認知に関する問題に迫っていく内容は純粋に知的刺激に満ちた内容ではあるが、実験心理学という基礎研究の成果を、社会の問題解決に活かそうという意欲に満ちた内容であるという点においても素晴らしいのが本書の特徴だ。臨床心理学と比べて実用性が見えにくく、脳科学と比べてメディアへのインパクトも小さいのが認知心理学や社会心理学の現状であるが、そのような基礎研究も、問題意識次第でこれほどまでに重要なメッセージを発することができるのだということがわかる(もちろん、基礎研究を「役に立つ」という視点で語ろうとすることに対する批判もあるだろうが)。

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# 『ルポ トランプ王国 もう一つのアメリカを行く』
2017/09/09 16:27
ルポ トランプ王国 もう一つのアメリカを行く 金成隆一 岩波新書 2017年



昨年の11月に誕生した新アメリカ大統領、トランプ氏。選挙前から彼の言動は世界の注目を集め、世の多くの人々の予想に反して大統領に就任した。本書は、多くの人が抱えたであろう疑問「なぜトランプ氏は支持されるのか」に対する1つの答えを提示する。

筆者がトランプ支持者の多い地域に精力的に赴き、取材を重ねていった結果わかったのは、トランプ支持者は、普通に真面目に働きながらも暮らし一向に良くならず、将来のへの不安感を抱く、ごく一般的な労働者であった。トランプ氏が繰り返す侮蔑的な発言に対して心から賛同するかというと、そんなわけではない。ただ、トランプ氏は自己資金で選挙戦に臨み、富裕層ではなく自分たちミドルクラスに関心を向け、何かを変えてくれるのではないかという期待感から、これまで当たり前のように支持してきた民主党を捨てトランプ支持へと鞍替えしてきた人々だ。グローバル化、中国やインド、ラテンアメリカの台頭が進む中で、かつてのように学歴がなくても真面目に働いていれば家族旅行を毎年するくらいの給料は当然のようにもらえるというアメリカンドリームを信じることができた世代とは異なり、将来が見えにくい生活に不安を覚える人々は、やり場のない不安を解消してくれる期待を込めて、トランプに投票した。

本書でも繰り返されていることだが、このような事態は対岸の火事と言える問題ではなく、日本、ひいては先進国全体が抱える根の深い問題に起因する。グローバル化に加えて、かつての発展途上国の台頭による労働集約型の雇用の減少、先進国の中流家庭の賃金は伸びず、先行き不透明な生活を余儀なくされている。トランプ氏の発言を批判し、あのような大統領を当選させたアメリカは何だと言うことは簡単だが、それで終わらせていてはいけない。アメリカで起こっている問題は、そのまま日本にも当てはまる部分が多く、差別や暴力も厭わない権威主義的な政治指導者の当選は、将来の日本にも起こり得ることである。アメリカを通して先進国は何を学び、何を考えていくのか。そのようなことが問われているように思えてならない。

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# 『ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?―キャリア思考と自己責任の罠 』
2017/08/23 11:45
ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?―キャリア思考と自己責任の罠 福島 創太 ちくま新書 2017年



「ゆとり世代」というくくりが登場してからそれなりの時が経過し、その年代の先頭は30代へと突入しつつある。何かとこれまでの人間とは異なる人々という印象を持たれ、「ゆとり」というレッテルを貼られてきた彼らは、就職・転職という人生の一大選択においても、明らかにそれまでの世代とは異なった思考や行動を示しているようだ。本書は、これまでの日本型雇用慣行に従わず、転職を繰り返していく「ゆとり世代」の若者のインタビューからその思考に迫り、その背景にある社会の仕組みに対する批判的な考察を行い、更には現状を打破するための案を提示する。

筆者が最も危惧しているのが、現代の日本社会の様々な側面に見られる分断である。世代間の分断、富裕層と貧困層の分断など、「あの人たちは自分とは違う」という感情に結び付きやすい状況のことである。本書に登場しインタビューを受ける「ゆとり世代」の転職者の語りも同様である。とても共感できるという見方から、けしからんという見方までがあろう。それでも、「やりたいこと」を求めたり、「ここではないどこか」を見つけたかったりして転職を繰り返す若者の行動に社会が影響しているという側面を無視した過大な自己責任論を展開しているだけでは、今後の日本に未来はないのではないかと筆者は警鐘を鳴らす。

本書を読んでいくと、若者の転職問題は根の深い問題であり、すぐには解決できないほどに大きな問題ではあるが、とにかく考えること、気付くことが重要なのではないかと思うようになる。

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# 『高大接続改革――変わる入試と教育システム』
2017/08/16 21:49
高大接続改革――変わる入試と教育システム 山内太地・本間正人 ちくま新書 2016年



2020年度から大学入試が大きく変わることを受け、「アクティブラーニング」という言葉が様々な場で使われるようになった。本書は、保護者、教師などが教育改革の動向を理解し、その中でどのような教育を行っていけば良いのかというヒントを与えてくれるものである。

まさに大転換を迎える2020年教育改革だが、現実には現中3生からその影響を色濃く反映した学校教育を受けていくことになる。そして、現小5生からは完全に改革された中等教育を受け、本人が望めば大学へと進学する。その年代の子どもと多少たりとも関わりのある人にとっては、気が気でないかもしれない。本書は、言葉だけが独り歩きしている感のある「アクティブラーニング」について、それが必要になっている背景、家庭でできること、アクティブラーニングの思想を取り入れている学校の事例などを紹介し、心の準備ができるようにしてくれる。

実のところ、アクティブラーニングを基本とする教育は、文化資本や金銭に恵まれた家庭の子どもと、そうでない子どもの格差を助長しかねない可能性を秘めた怖さを持っているそうだ。それでも、子育てをしている家庭にとっては、来るべき時代に対して可能な限りの準備をしておきたいというのが本音であろう。本書を読むと、決して身構え過ぎず、人間本来の学びたいという気持ちを尊重し、自分たちだからこそできることを、という視点を忘れずに果敢に立ち向かう姿勢こそが大切だと思えてくる。

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# 『辻井伸行 奇跡の音色 恩師との12年間』
2017/08/01 23:18
辻井伸行 奇跡の音色 恩師との12年間 神原一光 文春文庫 2013年



世界的ピアニストである辻井伸行さんが唯一恩師として挙げる存在が、小学校1年生の時から12年間ピアノを指導し、彼のピアニストとしての土台を築いた存在である川上昌裕氏である。ウィーンへの留学経験もあり、確かな実力を持った川上氏だったが、25歳の時にショパン・コンクールに落選し、その後はコンクールを受け続けたものの、思うような結果は得られていなかった。そんな矢先に飛び込んできたのが、帰国して東京音大で教えつつ、辻井伸行さんの指導もするという話であった。視覚障害者へのピアノ指導はまったく経験のなかった川上氏であったが、試行錯誤の末に編み出した手法や、ウィーン留学で経験したヨーロッパ流の指導法などが辻井伸行さんの才能を見事に引き出し、彼を世界的なピアニストへと成長させていくのであった。

本書は、NHKのディレクターがかつて放送された番組の内容を書籍の形にまとめたものである。川上氏の音楽に真摯な姿勢や、本質を見極めつつ常識にとらわれない発想で指導に当たる様子は、視覚障害者教育という領域を超え、教育において大事なことは何かということを考えるきっかけとなる。氏の指導はまさに全身全霊をかけての指導であった。楽譜の内容を音声でまとめた「譜読みテープ」の作成、コンクールへの付き添いなど、全盲のピアノ好きな少年を世界のTSUJIIと呼ばれるまでに成長させた教育者としての力には脱帽する。

私が特に印象に残っているのは、辻井さんの演奏法に対する川上氏の考え方だ。見えた経験のない辻井さんの演奏の仕方は、一般的に見るとかなり特異な面を持つ。しかし、川上氏はその演奏法の裏に視覚障害者なりの工夫と、辻井さんならではの個性を感じ取り、オリジナリティとして尊重するという方針を取ったのだ。これは、常識にとらわれない発想ができ、なおかつピアノという楽器に関する確かな専門性を持った人でなければ成し得ないことであろう。川上氏は、演奏家としては悲運の人生を辿った人物かもしれないが、指導者としてはこれ以上ないほど素晴らしい人物だったのではないだろうか。

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# 『尊敬されない教師』
2017/07/31 17:15
尊敬されない教師 諏訪哲二 ベスト新書 2016年



日本語では、言葉のうえでは教師に対しては尊敬語を使うようになっているが、実際の気持ちとして、教師に尊敬の意を持つ者は少ないのではないだろうか。筆者が教師として過ごしながら見てきたのは、まさに教師が尊敬されなくなるに至っていく歴史そのものだった。筆者が自らの高校教員としての日々を振り返りながら、教師が尊敬されなくなった原因や、そのような時代に必要となる教員としての心得、社会が持つべき視点などについて縦横無尽に語ったのが本書である。

筆者が高校教員となったのは、ちょうど団塊世代が高校へ入学してくる時期であった。その後の高度経済成長の時期を経て、日本は経済的な観点(すなわち個人の利益)から物事を見るという習慣が強くなり、その影響を教育も免れることができなかった。学校と家庭・生徒との関係は、ちょうど商取引上の対等な契約を結んだような関係となり、教育が社会から贈与されるものであるという考えは消え失せた。そこに教師が尊敬されなくなった理由があり、生徒や家庭は教師や学校に対して意見することが増えていったのである。教育の機能不全と思えるような事態も急増していった背景もここにある。

筆者は、教師が特別優秀な人間がなる職業ではないと認めたうえで、それでも現場の教師が極端にレベルが低いとは思っていない。逆に、教師に対して批判的な言説には痛快とも思える反論を行っている。大した権限を世の中から与えられてもいないのに、責任を追及するときだけ教師がやり玉にあがるという見方など、なるほどと思える。その他にも教師として必要な処世術や考え方など、参考になることは多い。「尊敬されない教師」としてどう生きていけば良いのか、考える手立てを得られる書となるであろう。

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# 『今日の風、なに色?』
2017/07/27 21:22
今日の風、なに色? 辻井いつ子 アスコム 2004年



全盲のピアニスト、辻井伸行さんの母、いつ子さんによる子育てエッセイ。息子誕生の瞬間から、子どもの目が見えないことへの不安、子どもが持つ音楽の才能によって見えた一筋の光、良き指導者との出会いなど、当時書いていた日記の記述を基にまとめている。全盲の子どもを育てるゆえの苦労、だからこそ得られる感動や喜びについて余すことなく綴られていて、心動かされる。

いつ子さんの子育てで特筆すべき点は、あくまで子どもの個性を尊重し、伸ばすという視点に立った教育をしてきたところである。軸がそこにあるからこそ、時に視覚障害者の育児では当たり前と思われている常識にとらわれないこともある。個性を信じて伸ばすことを実践し続けてきたからこそ、天才ピアニスト、辻井伸行さんが育ったのだと納得がいく。

迷ったことや苦しいと思ったことも、当時の日記の生々しい記述からとてもよく伝わってくる。時に悩みながら子供とともに歩んできた日々の記録から学べることは多い。

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