E=mc2 世界一有名な方程式の「伝記」 デイヴィッド・ボダニス 伊藤文英・高橋知子・吉田三知世
訳 ハヤカワ文庫 2010年
もし、ある人物の年代記を「伝記」と呼ぶとしたら、方程式の歴史は伝記と言えるのだろうか。本書の主人公は方程式だ。もちろん、方程式誕生に多大な貢献を果たしたアインシュタインの名は無視することができないし、本書でも彼の業績はページ数を割いて扱われている。しかし、この偉大な方程式は、様々な人々を巻き込み、あたかもそれ自体が人間であるかのように独り歩きを始めた。主人公「E=mc
2」が関与するところには、数々の喜怒哀楽が生まれ、新しい技術も誕生した。そして、原子力という人類の歴史に功罪をもたらしたものも。
本書は、方程式E=mc
2の歴史について概観する。初めに、式が持つ5つの記号の意味が語られ(この部分も面白い)、アインシュタインと方程式との邂逅、彼に続いて功績を残した科学者達の人間ドラマ、原子爆弾を巡る各国の緊迫した政治などが描かれる。最後には、本書の名脇役達、すなわち、方程式に関わった偉人達のその後が簡潔に語られ、方程式物語の幕が閉じる。
素人としては、1つの方程式についてこんなにも膨大な歴史があったのかとただ驚くのみであった。それでも、筆者からしたら泣く泣く伝記から削らざるを得なかったエピソードや科学理論がまだまだあるということで、巻末には数十ページにわたる注釈が施されている。わからないと思ったこと、もっと知りたいと思ったことがあれば、読者はここを参照することで、E=mc
2のさらなる深い深い世界に入っていくことができる。本書は、E=mc
2の伝記であり、なおかつ冒険ガイドブックでもあるのだ。
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