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# 『妻を帽子とまちがえた男』
2009/11/10 12:27
妻を帽子とまちがえた男 オリバー・サックス/高見幸郎・金沢泰子 ハヤカワ文庫 2009年



気になっていた本が文庫化したのを機に購入。

脳の神経系に問題を抱えると、人間は奇妙な行動をとることがある。本書では、そのような問題を抱えた患者24人の事例が紹介されている。逆行性健忘に悩む人物、自分の身体を自分のものと感じられない男性、豊かな才能を持った自閉症の子どもたち。但し、筆者が目指すのは「人間味あふれる臨床話」である。筆者は、患者をある症状の一例として扱うのではなく、血の通ったひとりの人間として尊重しようという強い意思を持って、執筆に臨む。

筆者は、医学系のエッセイストとして有名な人物。アメリカではベストセラーを連発している。読んでみると、さすがと思える文章だ。各患者像が、魅力的な比喩を駆使して描写されていく。医学者でありながら、哲学や文学に関する知見の広さが随所に垣間見られる文章からは、筆者が文理両方に通じた人間であることがよくわかる。

そして、何と言っても、本書の最大の魅力は、患者の一人ひとりを人格を持った人間として認め、最大限の敬意を持とうとする筆者の姿勢である。患者と接する際には、患者が気分を害さないよう細心の注意を払い、わずかな変化を見逃さないよう注意する。特に、最後の方の自閉症の人々の物語では、筆者の姿勢が最も顕著にあらわれている。例えば、お互い数字を言い合って遊んでいる双子の自閉症を観察し、その数字が素数であることがわかったら、次の時には、数字に関する本を隠し持って、自らもその遊びに参加するというエピソードがある。筆者が本当に真摯な態度で患者に向き合っているのが伝わってくる。

筆者は、自分を「自然科学者と医学者との両方である」と述べている。すなわち、理論という抽象的なものを探る者でありながら、個々の患者という極めて具体的な事例に対処する者でもありたいということである。物事に対して抽象的な法則を発見することは、人間の特徴であり、かつ長所である。しかし、それによって個々に目を向けないということが起こってしまうのなら、本末転倒とも言える。私達は、ともすると一人の人間よりも全体的な傾向を重視してしまう。それは、科学に限らない。例えば、教育においても、目の前にいる個々の生徒を相手にせず、一般論を振りかざしてしまうことがあろう。およそすべての学問には、少なからずこのような傾向があるといえよう。本書は、個の軽視に対して警鐘を鳴らす。一般化と個別への理解の両立が実現できるようになるには、どうすれば良いのだろうか。
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