リスク・リテラシーが身につく統計的思考法 初歩からベイズ推定まで ゲルト・ギーゲレンツァー 吉田利子
訳 ハヤカワ文庫 2010年
現代の世の中は、不確実なことばかり。「これをすることによるメリットとデメリットは何か」などと、リスクについて考えるべきことは多い。しかし、そのためのツールが果たしてどのくらい普及していると言えるのだろうか。本書は、豊富な事例を基に、確率的な思考法に慣れて、各人がリスクについて正しく判断できるようになることを目指したものである。
原書の副題は、
How to Know When Numbers Deceive Youということで、確率的な思考法が、現代社会を生き抜く上での必須条件だと考えるのが筆者の立場。それもそのはず。本書で扱われる例は、乳癌の検診で陽性と診断されたとき実際に癌に罹っている確率、法廷で証拠として提出されたDNA鑑定が容疑者のDNAと一致したとき容疑者が犯人である確率など、まさに生きることと密接に関わった内容ばかり。高校で学習する、サイコロが、コインが、くじ引きが、などといった、実生活との結びつきの弱く、切迫性のない事項ではない。その他にも、例えば、ある治療法の効果を説明する際、「○%の減少」という説明を見たときの注意など、確率のみに限らず、数字に利用されたり踊らされたりしないように気を付けるための考え方も、しっかりと説明されている。そして、反対に人に説明するときにはどのような方法を使うべきかという注意点についても丁寧に述べられている。数字を足したり掛け合わせたりといった、ややこしい手続きを経なくとも、理解しやすい方法は存在するのだ。詳しくは省略するが、それは、具体的に1000人なり10万人の集団を想定し、具体的な人数で考える方法。この方法を用いると、アメリカ、ドイツの大学生の半分以上が、正答率9割を超えたという。
本書の随所に見られるのは、リスクを正しく説明しない(説明できない)医療従事者や、法廷の検察や弁護士、巧みに数字を利用して利益を上げようとする企業への批判である。このような指摘を見ていると、確率という分野は、数学の中で最も社会との関わりが強い分野なのではないかと思えてくる。確率を勉強することの意味は、この1冊を読むことで明らかになると言っても過言ではない。
PR