シュレディンガーの猫は元気か 橋元淳一郎 ハヤカワ文庫 1994年
著者の独断と偏見に基づいた視点で選ばれた、科学誌ScienceとNatureの論文の論文のトピックを中心に、科学について縦横無尽に語った本。選考の基準は、「面白いかどうか」のみ!
啓蒙書とも、科学を気取っただけの本とも一線を画した、科学系読み物という表現が適切と思われる本。筆者は、教科書に載せられた内容を魚の日乾し、ScienceやNatureの論文を鮮魚と喩え、科学の面白さを伝えてくれる。そのため、中には事実として確定していない事柄や、教育的とは言い難いテーマもあり、真面目な内容に飽きてしまったり、興味が持てない読者へのサービスも充実している。トピックは非常に幅広く、自分が少しは予備知識を持っている内容についてはそれほど苦労しなかったのに対して、予備知識のない内容については、いささか苦労した。しかも、本書が発売されたのは、今から15年程前。もっと科学の知識を仕入れていかなければという反省を促された。時が経過した今、本書に記述された事項は、さらに解明されていったのだろうか。現在の動向への興味を刺激された。
科学そのものの内容が本筋であるが、最終章では社会と科学の関係ということで、研究者についてのデータや、ノーベル賞の裏について述べた記事までも扱われている点が憎い。本当に、科学について自由自在に語っている雰囲気のある本だと感心してしまう。
本書を読むと、ScienceやNatureに惹かれ、読んでみようという気にさえなってしまう。実際は、専門用語の壁を越えなければならないが。それでも、少し自分の興味があるところからでも読んでみるかと思える。本書最後のトピックによると、日本人はアメリカ人よりも医学や技術に関する科学的知識に乏しいらしい。啓蒙書を意識したわけではないと言いつつ、筆者は、最終的にはきちんと教育的な視点も入れながら話を締めくくっているではないか。
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