カオスが紡ぐ夢の中で 金子邦彦 ハヤカワ文庫 2010年
複雑系研究の第一人者によるエッセイ、小説「カオス出門」「進物史観」を収録。表現形式が多彩なだけに、切り口も多彩。複雑系とは、カオスとは、いかに。
本書を何かしらのジャンルに分類することは、困難を極める。エッセイもあるけれど、小説もある。内容は複雑系やカオスになっているが、扱っている対象は、日常の出来事から物語を作り出すコンピュータまで。それでいて、「複雑系入門」「科学啓蒙書」なんてラベルを付けたら、筆者に怒られてしまうであろう(理由は本書参照)。分類不能さを楽しむことが、本書を楽しむ秘訣である。
序盤のエッセイでは、筆者と複雑系との出会いに関するエピソードも挿入しつつ、時に科学全般に関して語る。特に、欧米で流行ったものは何でも良しとして、日本の研究に注意を払わない姿勢に対する批判は痛烈。さらには、メディアや大学の研究費獲得競争に対しても、批判的な目を向ける。
後半の大部分を占める「小説 進物史観」は、物語を自動的に生成する機械と、その研究に携わる研究者達の奮闘が描かれる。もちろん、複雑系に関する話題も登場するが、人間はなぜ物語を求めるのかという哲学的なテーマ、物語の手法といった文学や批評と関連するテーマも取り上げられている、摩訶不思議な作品。
ちなみに、巻末のインタビュー形式のあとがきは、筆者が作り出した仮想のインタビュー。そして、解説は、「小説 進物史観」に出てくる、仮想の小説家(便宜的に設けられた「作者」)、円城塔。この辺りが、作者のひねくれ具合と、新たな表現に対する旺盛な好奇心を物語っている。
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