感情が経済を動かす 新しい経済学「ヒューマノミクス」の革命的挑戦 ウヴェ・ジャン・ホイザー 柴田さとみ
訳 PHP研究所 2010年
かつての経済学が想定してきた、常に合理的な選択を行なう人間という像は、崩れつつある。本書では、時に感情に駆られ、時に非合理的な行動を取る人間を前提とした、行動経済学の理論を基に、経済のあり方を問う。
行動経済学に関する入門書はそれなりに出版されているけれども、本書が類書と決定的に異なる点は、行動経済学の知見をどのようにして国家の経済政策に活用していくかという視点に重点を置いていることだ。それゆえに、扱う対象は、幸福、税の問題など、経済学が扱うべく根本的な問題である。
幸福は、絶対的な指標ではなく、あくまで相対的な立ち位置から感じられるものであることがわかった。では、どんな政策によって、人々の幸福度を上げることができるか。人々が税を支払う条件について、行動経済学的な視点から分析することができた。では、どんな税制が敷かれれば、人々は満足できるのか。本書では、このような問題がじっくりと検討される。そして、行動経済学の成果を取り入れることによって、単なる「大きな政府」か「小さな政府」かという枠を越えた深い議論が可能になるという道筋を示してくれる。消費税議論が選挙戦での1つの焦点となっている昨今の日本において、本書の視点は非常に示唆に富んでいると言えるだろう。
人間は、常に合理的に動く存在などではない。かといって、常に一時の感情に支配されるほど愚かでもない。人間の性質、さらには土地の文化までもを見極めた絶妙な経済政策の実現こそ、現代の政治家の手腕が問われる領域かもしれない。
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