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# 『知的生産の技術』
2010/07/13 15:05
知的生産の技術 梅棹忠夫 岩波新書 1969年



知識を教わる機会は多くとも、知的な作業を行うための方法に関しては、どれだけ教えられているのだろうか。本書は、そのような疑問の下、知的な作業を行うための「技術」を伝授する。情報の整理の仕方、本の読み方、文章の書き方… ちょっとした工夫で、作業の能率が上がり、かつ良い出来栄えのものを生産できるようになる。

梅棹忠夫氏に追悼の意を込めて、この機会にと思って、読んでみた。出版年は古いけれども、今日的にも意義を持った記述は多い。例えば、情報をすべて同じ形式のカードにまとめて整理するという方法は、本書で紹介する技術の要。なぜその方法に行き着いたのか、カード式の利点が事細かに書かれていて、情報整理の基本を学べる。印象に残ったのは、整理と整頓は違うということである。一見、きちんと物事が整えられているように見える「整頓」で満足してしまい、どこに何があるのか正確に把握できる状況である「整理」という視点を欠いてはいけない。反対に、一見乱雑に思える収納をしていても、「整理」できていれば、問題はないのである。なかなか含蓄があるように思えないだろうか。また、後半の読書・文章に関する部分でも、なるほどと思える手法が紹介される。特に、当時は読書の方法というと、文学的な批評、文章の書き方というと、文芸的な観点からの文章法が多くを占めていた時代である。その中で、学術的な文章を読み、書く方法を考えあぐねた本書の意義は大きいであろう。

本書の目的は、ハウツーを徹底的に紹介することではない。むしろ、知的な作業を行う方法について、話題提供をすることにある。だから、知的生産にそぐわない文房具の現状を批判的に述べたり、文章を書くための形式が定まっておらず、苦心している編集者の現状を示したり、タイプライターと相性の悪い日本語の表記体系について一考を巡らせたりと、幅広い話題を扱う。

本書が発売されてから、一般向けのコンピュータとして革命を起こしたWindows 95の発売までは、四半世紀の時を待たねばならなかった。本書に書かれていることの中には、ワープロやPCによって解決された問題もある。特に文章の書き方、情報の処理の仕方は、PCの普及によって、革命的な変化を遂げた。その意味では、「知的生産の技術」は大きな改変を必要とするであろうし、本書の記述には、時代にそぐわなくなっている部分もある。

しかし、それは、ある意味当然だ。むしろ、40年も前の状況と現在の状況を比べてあれこれ言うのは、全く生産性がない。では、本書の価値はどんなところにあるのか。それは、試験での点取りに収まらない勉強の方法をきちんと教えることの大切さ、きちんと分かりやすい文章を書く方法を指導する重要性を指摘しているということにあろう。この問題は、未だに解決されたとは言い難い。また、情報のまとめ方といった基本的な作業は、家庭用コンピュータが普及した時代でも、大いに参考になる。そして最後に、何となく低級なものとして嫌われている技術について、お互いの経験を共有し合うことの意義があろう。ハウツー本が氾濫する現代においても、案外個人の閉じた世界に封印された技術は多い。個人の工夫に任されっぱなしの領域を、どのようにして世の中で共有するか。これは、伝達する技術が向上し、普及するだけでは解決できない問題である。本質的な課題は、本書出版から40年経過した現代でも残されたままだ。
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