就活って何だ 人事部長から学生へ 森健 文春新書 2009年
現在の就職活動において、企業が学生に臨むこととは何だろうか。この疑問を、日本を代表する人気企業15社の人事部長に問うてみたのが、本書。そこから浮かび上がってくる、学生に求められる素質とはいかに。どのような学生を採用したか、あるいは、どのような学生が応募してきたのかについて、時には具体的な事例にまで踏み込んで、各企業の人事部長が2010年新卒採用の実態について語る。
筆者のまとめでは、これらの企業に採用される学生に共通している特性は、困難に負けず、チャレンジ精神に富み、リーダーシップを発揮しつつも、周りの意見に耳を傾けられる協調性やコミュニケーション能力に長けた人材であるという点。何とも、学生は大きなことを期待されているものだ。しかし、実際に各人事部長が採用した例として出す学生は、そのような才能に溢れているように思えた。行動力を発揮し、問題意識を持ってこれまでの活動に取り組み、リーダーシップも発揮してきたというタイプの学生だ。よく、「特別な経験はなくても良い。あっても必ずしもプラスになるわけではない」という文句を聞くことがある。これはこれで、真実を語った言葉であろう。人事担当者が口を揃えて言うことは、「どうして取り組み、経験から何を学んだかが大事」という視点。一方で、やはり稀有な体験が効果を持つことがあるのは否めない。これでは、「普通の」学生が怖気づいてしまうかもしれない。これを見かねた筆者が最終章で、普通の学生でも、自分と真剣に向き合い、就職活動を行うことで、突破口を見出せると言う。
本書の売りは、「人事部長が本音で語った」ということである。確かに、非常に具体的な事例とともに、採用の実態が述べられることもある。とはいっても、出版物になる以上、これだけが採用の現実と考えるのは早計であろう。各企業、「こんな優秀な学生さんが、他社ならず我が社に入社を決めました」と言いたくなってしまう気持ちは山々であろう。バイアスを意識しながら、読んでいかなければ、情報に踊らされてしまう。本書を通じて、各企業の人事担当者が繰り返し述べているのは、「マニュアルに惑わされるな」ということ。それなのに、この本で読んだことに必要以上に囚われ、自分を見失ってしまっては、何とも皮肉な結果だ。
現在は、本書に登場した人事担当者が就職活動をしていた頃と比べて、就職活動の実態が大きく変化した。人によっては、昔の自分は、現在だったら採用されないだろうと、語っている。これだけ巨大化・複雑化した就職活動において、学生が途方に暮れてしまうのは、もっともなことであろう。本書を読んだところで、結局、「自分の頭を使って考える」「積極的に社会人と会う」くらいしか、この試練を乗り越える方法を思いつけないほど、先が見えない世の中なのだろうか。
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