大人はウザい! 山脇由貴子 ちくまプリマー新書 2010年
子どもが発する「ウザい」という言葉には、様々な意味が含まれている。怒り、落胆、失望… どんなときに「ウザい」が現れるのか。具体的な事例によって検討すると、実はこの言葉は、大人に対する重要なメッセージを子どもなりの言い方で発しているのだということがわかる。本書は、子ども達にとっての代表的な大人、親、教師、評論家、街行く大人に対して子どもが「ウザい」と思った瞬間を集め、大人が子どもと向き合っていく姿勢、大人のあるべき姿を問う。
おそらくは、大多数の大人が、かつては似たような体験をしたことがあるのではないだろうかと思える事例が豊富に紹介される。子どもの自主性を尊重せず、口煩くなってしまう親、子どもの味方になった振りをする教師、「今どきの若者は…」と批判的なことしか言わない評論家。こんな大人達に、誰もが嫌な気持ちを持った経験があるのではないだろうか。しかし、時が経つにつれて、今度は自らが「嫌な大人」への階段を着実に上り始めているということはないだろうか。
本書に登場する子どもの批判は、あまりにも正論で、真っ当で、納得せざるを得ない。なぜ、直接会ったこともない友人のことを批判するのか。自分の誤りを認めようとしない教師はおかしい。今と昔の時代的な違いを無視して、現代の若者を批判するのは理にかなっていない。「日本を良くする」と言いながら、国会では喧嘩ばかりしている議員にはがっかりする。その他にも、周りに溢れる矛盾にメスを入れていく子どもには、頼もしささえ感じる。これが、「学力が低下」し、「すぐキレる」子どもの姿なのか。とてもそうは思えない。
人間は、昔の辛い体験や苦しかった経験などすぐに忘れてしまう。だから、大人になって改めて中学生・高校生の時代を振り返ると、「あの頃は何て気楽だったのだろう」と思ってしまうのだろう。そのときの悩み、苦しみなどは、すっかり頭から抜けてしまっている。少しでも、自分の昔の姿を思い出して、子どもに共感することができれば、子どもと大人の軋轢も小さくなるのではないかと思ってしまう。
最終章では、現在の子どもを取り巻く環境が複雑化し、子どもが日々人間関係に疲弊しながら生きている現状が述べられる。そして、子どもに模範を示すという大人の責務についても、語気を強めて語られる。若い世代のモラルが低下したと嘆く前に、大人が率先してやるべきことは山積している。
反対に、本書は、子どもにとっても読む価値がある。自分と同じような境遇に苦しむ仲間に共感できるかもしれないし、子どもについ文句を言ってしまう親や先生への理解も一歩深まるかもしれない。子どもと大人の橋渡しとしての役割も果たせる、類稀な本だ。
PR