イチローvs松井秀喜 相容れぬ2人の生き様 古内義明 小学館101新書 2010年
共にメジャーリーグを代表する日本人選手である、イチローと松井秀喜。メディアへの対応に見られるように、2人は対照的な面を見せることが多い。本書は、メディアとの対応のみならず、プレイへの考え方、父親との関係や、食事に至るまで、様々な面から両者を対比させ、違いを浮き彫りにする。
なかなか面白いテーマだと思ったので、購入。思えば、2人は野球のみならず、生き方の面においても対照的であると思わせる部分が多々ある。おそらく、よく言われるところは、メディアへの対応と、個人の記録に対する考え方の違いであろう。
松井秀喜は、メディアに対して本当に真摯な対応をする。全打席凡退でも、3安打でも、不調でも好調でも、感情を露わにはせず、必ずメディアからの質問に応える。そして、その模様は日本のニュース番組でも放送される。それに対して、イチローは、メディアを前にひねくれ発言をすることも多く、時には子どものようにはしゃぐ姿も見せる。イチローのコメント力については、以前、斎藤孝氏がテレビ番組で絶賛していた。
個人記録に対する考え方も正反対だ。イチローはメジャーリーグに進出後も前人未到の領域までに踏み込む実力を発揮し、自らが所属する弱小チームの中で飛び抜けた活躍を見せる。一方、フォアボールが少ないことが批判されるように、チームの勝ち負けよりも個人の哲学を貫くことを重視していると思われても仕方がないようなプレイスタイルだ。反対に、松井秀喜は、チームの勝利ということを何よりも大切にする。先日、日米通算1500打点を達成した時でさえ、ホームランで自分がホームを踏む以外はすべて仲間のお陰とし、大喜びする様子はない(もちろん、松井の言っていることは正論ではあるが)。
本書が触れている領域は、さらに広い。親子関係、食事(好き嫌いからこだわりまで)、ファッション(私服からユニフォームの着方まで)、所属するチーム(大都市の常勝チームか、地方の弱小チームか)に至るまで、2人を対比させる。笑ってしまうのは、影響を受けた漫画の違い。イチローは『キャプテン』、松井は『ドカベン』なのだそうだ。徹底して両雄の違いにこだわり、これでもかと話題を提供する姿勢には、ある種の感嘆すら覚える。
これだけ違いがあっても、両者は結果的にファンを楽しませているという点では同じだと思う。それでも、本書は、書き出しと締めくくりで、時代はどちらを真のヒーローとして選ぶか、あなたならどちらを選ぶか、ということを一貫して問いかけてくる。一方がいるから、もう一方が引き立つということもある。どちらかとは言わず、両方が対照的であること自体を楽しんでいきたいという回答では、不十分だろうか。
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