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# 『中学受験の失敗学』
2009/10/28 21:02
中学受験の失敗学 瀬川松子 光文社新書 2008年




教育産業の広告に溢れる、華々しい「第一志望校合格」という言葉。ところが、その裏には、決して語られない無残な結末を迎えた事例が多く存在する。特に、塾や家庭教師に多額の投資を行いながらも、志望校全滅という悲惨な事態だって起こりえる。しかし、子どもの実力を適切に把握し、教育に際限なく出費をするという構えをなくせば、最悪の事態は回避できる。では、どうして最悪の事態は起こってしまうのか?
本書では、このような事態に陥ってしまう過程には、往々にして「ツカレ親」がいるという。「ツカレ親」とは、中学受験に取り「憑かれ」、心身ともに「疲れ」てしまっている親のことを指す、筆者独自のネーミングである。「ツカレ親」は、決して良い結果をもたらさない。本書では、悪夢を回避するべく方法を模索する。

非常に面白い点を突いてくる本だと思う。筆者は豊富な家庭教師経験があり、そこで出会った事例から、中学受験に必要な心構えを提示していく。1つ目のコツは、第一志望にこだわりすぎず、子どもの実力を見て柔軟に志望校を判断すること。場合によっては地元の公立も視野に入れ、無理させすぎないこと。それには、無駄なプライドは捨て、子どもの学力や希望と真摯に向き合うこと。言うは易く、行うは難しといったところか。2つ目は、ただ利益のみを追求する悪質な業者を見抜くこと。具体的な例とともに、チェックリストまで付いているのが頼もしい。

それだけで終わらないのが本書の魅力である。最後に、そもそもなぜ「ツカレ親」が登場しなくてはならない状況があるのかという点に、筆者は言及する。「良い大学」「良い会社」という一元的な基準のみによって人を評価する社会、公立中学の惨状を誇張し、中学受験をしなければ良い教育が受けられないかのような物言い。悲劇を生む親ばかりを非難せず、社会の風潮も問題視する視点が大切だと筆者は説く。

受験というものは、中学受験にしろ、大学受験にしろ、自分(あるいは自分の子ども)と向き合うことが求められる、ある意味辛い場面である。人は初めて世の中における自分の立ち位置を知り、理想の自分との隔たりに悩み、もがく時期である。せっかくの貴重な経験を、世間の勝手な言い分に流されて台無しにしては、もったいない。素直に自分(の子ども)と向き合い、世界に向かって果敢に羽ばたく(羽ばたかせる)気概を持てというメッセージが感じられる。


筆者は、自身のブログで、精力的に情報を発信している。また、2009年の11月には、本書の続編と言えそうな本が発売される。
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