私の男 桜庭一樹 文春文庫 2010年
24歳の腐野花の養父は、16歳年上の男、腐野淳悟。めでたく結婚することになった花は、父親と離れてしまうことに不安を覚える。父娘の関係というよりは、年の離れた恋人のように見える2人の秘密とは。父と娘の15年に亘る関係を描いた作品。第138回直木賞受賞作。
物語は現在から徐々に過去へと遡っていく。その過程で、愛に飢えた2人の禁断の関係が紐解かれていく。生々しくも、どこか空虚な悲しさも感じられる物語。父と娘の物語であり、謎解きでもある。合計4人の視点から描かれた断片が、やがて1つの絵を作り上げる。
なぜ、「お父さん」や「淳悟」ではなく、「私の男」なのか。一体淳悟は何を考えているのか。「家族」というものがわからずに出会った2人にとって、2人の禁断の関係は必然だったのか。それとも、他に方法はなかったのか。お互い堕ちていくことを自覚しつつも、互いを求め合う2人の未来はどうなるのか。この辺りが読者としての検討課題か。
物語の主役である「腐野花」というネーミングセンスは、作者を広く世に知らしめることになった作品である『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』の悲劇のヒロイン「海野藻屑」を彷彿とさせる。以前の作品を知る人は、そんなところで楽しむことができるかもしれない。
PR