モードの方程式 中野香織 新潮文庫 2007年
普段何気なく着ている衣服にも、隠された物語がある。日常に潜む思わぬ事実を纏め上げたエッセイ。
各項目は、約3ページずつで進むことが多く、簡潔に終わっていくところが読みやすい。時に辛口に、時になるほどと思わせる語り口で、衣服にまつわる薀蓄、衣服が発するメッセージについて縦横無尽に語り尽くす。
タイトルに「方程式」とあるように、衣服が発するメッセージを読み取ることも、本書の大きなテーマ。不思議なことに、衣服に多大な関心を抱く人も、まったく無頓着な人も、老若男女問わず、着る物によってメッセージを発しているのだ。例えば、スカートの下にジャージを穿く女子中高生の姿が、「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」という映画ののヒロインの姿に重なってしまうという指摘は面白い。
男にスカートを許すべきかなど、男女のファッションに関するキーワードの取りまとめ方も巧い。ファッションが、文化、思想、社会といかに密接な関わりを持っているかがわかる。
また、軽妙洒脱な筆致で語られるエッセイは、筆者の文章が巧みであることを物語る。話題をどう落とし込むか、どう書くか、そんなところも学べる優れ物。
それだけに、巻末の文庫版特別収録の、筆者、河毛俊作、栗野宏文3者による対談は、少し残念。クールビズ批判に始まり、男性のカジュアルダウン批判、最近の若者がファッションの型を身につけないことへの嘆き、男性性はどこへ行ったのだという懸念… 現在の流行から発せられるメッセージについてでも話してくれたら、巻末に相応しかったであろうに。
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