英語リーディングの科学 「読めたつもり」の謎を解く 卯城祐司
編著 研究社 2009年
本書は、簡単そうに見えて意外と難しいことである、「『読める』とはどんな状態か」ということについて、英語リーディングを材料に、様々な視点から問題提起をしていく。
文章読解について、何となく誰もが、単語を知らなければいけない、背景知識が必要だ、図があった方がわかりやすいだろう、などといったことは考えるであろう。そして、それは事実である。しかし、本書はそのような常識について、もう一歩深く踏み込んだ視点から検討する。例えば、「単語を知っている」とは、どんな条件が揃っていることを指すのか。単語1つについて1つの意味だけを知っていれば十分というわけではないし、かといって、単語学習は限りがない世界でもある。また、背景知識といっても、どんな知識が読解に有効なのか。本書は、これらの質問に対する答えを複数提示していく。それらの例から、読解に対して複眼的な見方ができるようになる。
本書の優れている点は、常識・理論・実践の3点の接点を模索しようという気概に溢れているところにあろう。個々の経験の中で何となく実感として持っているものが、理論と照らし合わせるとどんな意味を持つのだろうかと考える機会になる。反対に、理論が持つ意味について考えることもできる。また、本書は非常にバランスの取れた立場から物事を語っている点でも優れている。文法訳読型のみで進める授業を批判する一方、「コミュニケーション重視」を徒に謳った指導法に対しては懐疑の目を向ける。本書から伝わってくるのは、それぞれの指導法の長所短所を見極め、適切に用いることが何より大切というメッセージだ。
教える側の参考になる部分が多いものの、学習者としての立場で読んでも面白い。読解力(英語のみならず、日本語も)を身に付けるための障壁を理解しつつ、学習を工夫していく方法を、各自が考えることで、自習の効率も上がるであろう。
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