歴史は「べき乗則」で動く マーク・ブキャナン 水谷淳訳 ハヤカワ文庫 2009年
大地震と小さな地震には、その原因に本質的な違いがあるのだろうか。大地震は予測できるのだろうか。これらの質問に対する答えは、いずれも「ノー」である。大地震には、典型的な周期など存在しないし、大きな地震も小さな地震も、原因は同じであるのだ。では、このような現象にはまったく規則が見当たらないのだろうか。実は、地震の規模とそれが起こる確率を2次元平面に表現すると、綺麗なグラフが現れる。例えば、地震の規模が2倍になると、その地震が起こる確率は4分の1になるというデータがある。このような規則を「べき乗則」と呼ぶ。この法則は、地震に限らず、一見何の規則もないように思える現象を説明する力を持っている。山火事の広がり具合、生物種の大量絶滅、株式の暴落などは、べき乗則の例である。では、人類の歴史もべき乗則で説明がつくのだろうか。本書は、べき乗則を解説した後、人間社会に存在する現象にべき乗則を適用する道を探る。
非常に興味深い本。まったく規則性がないように見える現象に対して、規則を見つけ出す可能性を提供するのが、べき乗則。科学的な事象を読み取るという視点からも面白く読むことができるが、物の見方という視点からも楽しめる。人間は、大事件の裏には何かしらの特別な原因が潜んでいると思いがちである。しかし、実際は特別な原因などなく、小さな出来事の積み重なりが大きな結果につながったに過ぎないということもあり得るのだ。物事を冷静に見極めるとはどのようなことなのか、考えさせられる。巻末の解説も良い。本編の内容を補うように、格差社会の例など、日常に溢れるべき乗則について語られている。
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