「渋滞」の先頭は何をしているのか? 西成活裕 宝島社新書 2009年
渋滞を、自己駆動粒子という概念で捉えると、思わぬ世界が広がる。車の流れはもちろんのこと、たくさんの人が群がった状態、蟻の列、インターネットの混雑、電車・バスの遅れ… 工学の視点から渋滞を解析し、渋滞解消に役立てることを目指す学問、「渋滞学」の基本概念を一般向けに解説した本。個人個人が今すぐにでも実践できる取り組みも多く紹介。
私はかつて、「渋滞の先頭は一体何をしているのだろう?」と疑問に思ったことがある。塾の先生からは、大体の場合は工事などで車線が減少する点に突き当たると教わった。それは、れっきとした事実であり、そのような渋滞はボトルネックと言われている。しかし、ボトルネックのない場合でも渋滞は起こり得るのだ。自動車が列になって走っているとき、ある車が少し減速したとする。減速は、後ろの車に次々と伝わっていき、最終的にはどこかの車が停車する。そして、俗に言う渋滞が起こるのだ。何だか、わかるようなわからないような。これが、本書の言う自然渋滞だ。この場合、渋滞を走る車はどれも、一瞬だが渋滞の先頭を走ることになる。「先頭のバカは何やっている」と思っている瞬間に、自らが渋滞の先頭を行くことも十分あり得るのだ。
自己駆動粒子という概念(詳しくは本文で説明されている)を用いることで、渋滞の考え方は、幅広い現象に応用できる。本書で紹介される1つ1つの現象自体も面白い。しかし、渋滞解消には、個々人が利他精神をどのくらい発揮できるかも鍵になるというのが、最も興味深い点。テクノロジーの発展によって渋滞解消を目指そうという取り組みはもちろんあるけれども、人間の心持ちも馬鹿にできないくらい重要なのだ。
そうなると、どうやって人間の利他精神を引き出すかといった、社会学や心理学の知見も大きく関わってくる。渋滞学の分野横断的、学際的側面を垣間見た瞬間だ。
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