日本の教育格差 橘木俊詔 岩波新書 2010年
日本の教育には、どんな格差があるのだろうか。また、格差はなぜ問題なのか。問題ならば、その是正策はあるのか。このような問いに対する回答が、本書には散りばめられている。学歴格差の問題、親の年収によって教育を受ける機会が狭められてしまうという不平等など、教育に関する様々な格差を、統計的なデータを基に分析し、打開策を探る本。
「年収が1000万円ある家庭でないと、東大進学は難しい」などという扇動的な文句がメディアによって唱えられ、近年、とみに教育の格差について語られるようになっているような気がする。本書は、学歴格差、家庭環境、学校の種類によって生じる教育の格差について、豊富なデータを基に、検討していく。
実際にデータを見せられると、教育の格差問題とは、一言では片付かない複雑なトピックであることがわかる。例えば、学歴格差の問題が興味深い。学歴格差は確かに存在するが、諸外国と日本を比較した場合、大卒者の賃金とその他の学歴の人々の賃金格差が非常に少ないのである。学歴社会と批判される日本の姿を考えると、意外な姿と思わざるを得ない(もちろん、平均という数値は、慎重に見る必要はあるが。一部の極端な例によって大きく引き上げられたり引き下げられたりするのが平均値の性質である)。
最後に筆者が主張するのは、政府が教育に対しての支出を増やすことと、学校での職業教育を充実させることである。私としても、これらの主張には共感できる。例えば、大学に入学するに当たって、公的資金によって運用される給付の奨学金がないのは驚愕の事態として認識すべきであろう。また、これだけ多様な生徒が普通科に在籍する現在においては、進学のみでなく、職業教育に力を注ぐことも、避けては通れない道なのではないかと思う。これらの主張については、概ね世間の支持も得られるであろう。ただし、筆者が主張する、職業科(商業科や工業科などの専門学科)を増やし、普通科以外の道を勧めるという点については、難しいかもしれない。なぜならば、50%程度が大学へ進学できる現在、大学進学の可能性をほぼ排除して職業科へ進む覚悟を持てる生徒は案外少ないのではないかと思うからだ。むしろ、専門学校化した大学を増やし、職業教育を充実させる方が、現実的な道かもしれない。もちろん、それには奨学金の充実が必要なのは言うまでもない。
教育の格差と一口に言っても、一体教育の中の何が問題で、格差が発生しているのはどのようなところなのか。普段、新聞やテレビ、雑誌などの断片的な情報を目にするだけでは、いまいちはっきりしない(実際、冒頭の東大の問題も、真偽は定かではないが、年収400万程度の家庭の子どもも通っていることだけは事実である)。そんな問題について考えてみるきっかけを与えてくれる良書だ。
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