差別と向き合うマンガたち 吉村和真・田中聡・表智之 臨川書店 2007年
漫画という表現媒体には、差別について語る格好のトピックスが溢れている。漫画表現そのもの、漫画における歴史描写、現代思想との関連について、3人の著者がそれぞれの見解を語る。
「この漫画には、このような差別表現がある」などと言うのは簡単だが、漫画と差別の関係は、それほど単純なものではない。漫画表現とは、差異やステレオタイプを巧みに用いることで、限られたスペースに最大限の情報を盛り込もうとするからだ。その意味で、漫画と差別には切っても切れない縁がある。
漫画の中で、背が低く、足の短いキャラクターは、どんな性格として描かれているのか?方言を話す登場人物の位置づけは?黒人の描写の仕方は?そのようなステレオタイプを用いずにして漫画を描くことは可能なのか?筆者の意図しないところで差別表現が問題になったとき、誰がどのようにして問題を解決するべきなのか?一筋縄ではいかない問題が潜んでいるのがよくわかる。
漫画が日本と世界を結ぶキーワードとして盛り上がりだしている現在、差別表現の問題は、ますます重みを増してきている。単なる漫画好きが、偶然差別問題について少々の関心を持って、本書を手に取る場合、差別問題に関心の高い人が、普段あまり読まない漫画という世界の差別問題を考えてみたい場合の、どちらにも対応できるであろう書籍だ。差別と漫画の両者が接点を持つことは、真の「クール・ジャパン」を追求するためにも有益であろう。
表現とは何か、どうあるべきかという広漠とした疑問を、本書は随所で投げかける。表現という人間の根本的な営みについて考える材料にもなる。
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