チョムスキー入門 ジョン・C・マーハ
文 ジュディ・グローヴス
イラスト 芦村京
訳 明石書店 2004年
人文学の世界では、大変引用されるのがチョムスキー。その数は、聖書やギリシア哲学の偉人には劣るものの、現在存命の者の中では最多であるという。本書は、そのタイトルが示す通り、チョムスキーという人物を紹介する本である。それゆえに、彼の言語理論の裏にある哲学的な思想はもとより、彼の政治的発言の根源となる考えまでが網羅され、チョムスキーという1人の人間像を浮き彫りにする。
どちらかというと、言語理論よりは思想的な背景についてまとめられている。チョムスキーの理論は、言語の生得性を基盤にしたり、理想的な話し手を想定することが、以前の言語理論と異なる点である。本書はその思想を、プラトンやデカルトの思想と関連させたり、ガリレオなど自然科学者の思想と対比させつつ紹介することで、チョムスキーが言語について何を考え、どこに向かおうとしているのか、豊かな情報を提供してくれる。また、様々な批判に対するチョムスキーの解答も簡潔にまとめられていて、チョムスキーの理論の特徴がよくわかる。
そして、本書が他の本と異なっている点は、全体の30~40%位を割いて、チョムスキーの政治的な発言についても扱っているところである。まるで社会からは断絶されたことを研究しているかのように思われがちな言語学者が、なぜ政治に対してあれだけ痛烈な批判をするのか。本書では、そのような問いかけ自体がチョムスキーにとっては不可解なものであると述べられる。なぜなら、田中克彦氏による解説でも述べられているように、「あなたの言っていることは本当か?」と考えることに、専門的な資格などいらないからだ。それこそが、民主主義の世界に生きる者のあるべき姿なのであろう。
類書にはない絵の多さが、本書の魅力。取り上げられている内容は、おそらくは非常に高度なことであろう。それでも、ほぼ毎ページに登場してくる挿絵や漫画のおかげで、理解が助けられる(それとも、わかった気になっているだけなのだろうか…)。
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