考えよ! なぜ日本人はリスクを冒さないのか? イビチャ・オシム 角川oneテーマ21
ワールドカップ南アフリカ大会開催まで、あと60日となった。現在のサッカー日本代表に求められるものとは。そして、1次予選突破への心構えとは。前監督が、提言を行なう。
ワールドカップが近付く中、サッカー本の出版が相次いでいる。そのような状況下で、前監督の言葉が持つ力は、どのようなものだろう。おそらく、本書に書かれいてるメッセージは、「考えて走る」ことと、「日本の独自性を意識する」ことに収斂される。
本書で盛んに繰り返されるのが、「コレクティブ」という言葉だ。これは、サッカーがいかにチームワークを重視したスポーツであるかを体現する。組織的な守備を行い、パスコースを埋める努力がなければいけない。攻撃においては、相手を消耗させるよう考えてパスを回し、自ら走る。これこそがサッカーの醍醐味であると主張される。「考えて走る」ことの大切さがよくわかる。
本書の2番目のテーマは、外から見た日本を意識することだ。日本では当たり前だと思っていたことが、世界では違っていることがわかる。日本が世界の標準と異なる点を意識することで、改善点の発見にも結び付くし、日本の強みに気付くこともある。最も目から鱗だったのが、高校サッカーに関するコメント。海外ではクラブチームがユースを持ち、若手の育成を一様に担っているのに対し、日本は学校の部活動が若手育成に大きな貢献をしている。これは、日本にとっては当たり前のことでも、海外から見れば極めて特殊な現象であるらしい。そしてまた、オシム氏によれば、高校サッカーは若手の育成、人材の発掘の場として、非常に良く機能しているという。「1億2千万人の人間がいながら、サッカーができて速く走れる男を見つけることができないなんてことがなぜ起こりうるのだ」(p. 99)など、ヨーロッパの小国の出身である筆者だからこその発想も興味深い。
繰り返し述べられるのは、自分を信頼することの大切さ。だから、現在の日本代表に対するあからさまな批判は全く為されない。提案も非常に婉曲的だ。本書を読み納得することが、筆者の本望ではないだろう。本書を叩き台にし、議論することこそ、筆者の意図するところだ。筆者は、選手に「考えて走る」ことを要求するのと同じくらい、読者に「考えて話す」ことを訴えかけている。
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