若手社員が育たない。―「ゆとり世代」以降の人材育成論 豊田 義博 ちくま新書 2015年
現在の新入社員は、「ゆとり世代」と括られ、真面目であるが戦力にはならないと嘆かれていることも多いという。あるいは、就職活動時には優秀であると評価されながらも、入社後に不適応に悩む社員も多いらしい。これは、決してその年代の若者の問題というわけではなく、そもそも日本の職場環境が悪化し、若者を育てる社会システムが崩壊していることによるというのが本書の主張である。ならば、人材を育て、組織の劣化を防ぐためには、今後どのような社会の姿が求められるのか。
本書が語る、ポテンシャル採用の後に社内で新入社員を教育していくというかつての職場が崩壊し、人材育成が劣化した様子はかなり納得のいくものである。通信手段が電話からメールへと移行していけば、先輩のしゃべりに耳を傾けて参考にする機会は奪われ、個人情報保護が厳しくなれば、机の上に散乱した書類をふと見ることもない。管理職がプレイング・マネージャーと化してしまえば、管理職の多忙さは以前とは比べものにならない。そのような状態では、若手は以前と同じような規模の教育を受けるのが困難であり、見よう見まねで行う学習さえも十分な機会が用意されない。
本書では、成長の鍵は勉強会や大学での学びにあると結論する。就職活動の現状について語った本でもよく見られるが、社会人として成長するためには、異質な他者との交流が大切であることが多い。現在考えられる、学びの場を提供できる組織が、勉強会や大学のゼミであるというのだ。ごく少数のエリートであれば、自ら世界を広げるだけの力を持っているだろうが、圧倒的多数を占める「ごく普通の」人間が学びの場を得ていくには、確かにこの辺りが最良の場と考えられそうだ。
もちろん、筆者は企業そのものが変わっていくという解決策も視野に入れている。大卒人口が増加し、もはや一握りのエリートではなくなった今、欧米で見られるような職種別の専門に従った採用を実施し、「どこへでも行きます。何でもやります」が一般的な雇用形態は幹部候補のみにしていくという提案は、迷える若者を救う手段となるであろう。
社会に大きな変革をもたらす提案も多いが、下手な経済政策より長期的でいて有効な視座を持っているように思う。ゆとり世代の1年上である私にとっては、未来が見えにくい世の中の現状打破へ向けた希望を感じる1冊であった。