AI vs. 教科書が読めない子どもたち 新井紀子 東洋経済新報社 2018年
人工知能が世界的に注目され、その開発に世界中のIT企業はしのぎを削っている。人工知能によって便利になった世の中を想像する楽観論がある一方で、AIが人間の力を超えるのではないかと恐れられているのも事実だ。今、AIに何ができるところまで研究や実用化が進んでいるのか。そして人類の未来に起こる問題は何か。
筆者は、AIは言葉の意味を理解しているわけではないのだから、「シンギュラリティ」など到来することはないと主張する。それは筆者が中心となって行っている「東ロボくん」プロジェクト(AIの東大合格を目指すプロジェクト)から明らかだという。AIは文章読解で大苦戦している。これが本書の前半部分の概要だ。
しかし、筆者はAI楽観論者でもない。よく、AIが活躍する社会では人間にしかできない能力を発揮することが大事だと言われている。だが、筆者の研究チームが行った研究の結果からは、ほんの一握りを除いて、日本人の読解力がAIレベル、もしくはそれにすら達していないということが判明したのだ。しかも、個々の読解力の差を十分に説明できるだけの因子は未だ発見されておらず、危機感を持つ教育現場で検証中だという。
本書を読んでいると、AI技術の基本的なことがわかるのはもちろん、教育や経済など、様々な問題に対する考えや意見が頭の中を目まぐるしく駆け巡った。それだけ考えさせられる刺激的な1冊だった。
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