小説版E'S(1) E'S The Time to Baptisma 結賀さとる エニックス 1999年
3度目の世界大戦を経験した後の近未来。そこは、人間と少数の超能力者が混ざって暮らす世界だった。しかし、両者の関係は、共存とはかけ離れたものだった。人間は超能力者に対して恐怖の念を抱き、超能力者は人間に対して憎しみを感じていた。世界を支配しつつある巨大12企業の1つである「アシュラム」は、超能力者を保護の名目の下集め、何かを企んでいる。「アシュラム」に所属する超能力者達に焦点を当てたストーリー。
今年の2月に最終巻が発売され、完結した作品である『E'S』の小説版。ただし、一般的なノベライズとは異なり、漫画の原作者自身が文章を書き、表紙絵や挿絵も担当するという、珍しい手法。元から、作者の作品を読んでいると、語彙の豊富さを感じることはあった。それは小説版においても健在。小説としても特に違和感なく読み進むことができた。
ところどころ原作の隙間を埋めるようなエピソードも盛り込まれているけれども、パラレルな展開も多い。原作でもテーマの1つになっている、能力者差別の状況を克明に描写したり、小説版オリジナルの大樹という「アシュラム」の脱走兵を用意したりすることで、超能力者達が抱える苦悩を大きく取り上げている。企業の利益のために能力者が売買されているなど、人種問題のような能力者差別の現状を扱うなど、本作の抱えるテーマは案外重いのだ。
原作では、ゲリラ掃討作戦中に負傷して以来、人格の改造を施されてしまった神露も、本作では元気な姿を見せる。戒に恋する神露を見ることができる、貴重な作品だ。
漫画の場合、台詞以外では、絵で示される表情や動作などしか、人物の心情を推測する手掛かりがない。それが小説になると、心情が文章で明示的に書かれる場合もある。そんなとき、一見すらすら理解できるように思える漫画や映像も、解釈には独自の高度な力が必要なのだと思ってしまう。
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