忍者ブログ
# [PR]
2025/03/10 07:43
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


CATEGORY [ ]
pagetop
# 『それをお金で買いますか──市場主義の限界』
2015/01/04 22:38
それをお金で買いますか─市場主義の限界 マイケル・サンデル 鬼澤忍訳 ハヤカワ文庫2014年



お金を払うことで行列に割り込める制度は今後浸透していくかもしれない。USJでは早く乗り物に乗りたい人のためにユニバーサルエクスプレスパスという有料のパスポートが販売されている。また、近年スタジアムや球場、野球のチームの命名権が売られている。いつの間にか慣れ親しんだスタジアムの名前が変わっていて驚き、どこか寂しい気持ちになった人もいるかもしてれない。再出発の横浜ベイスターズは、辛うじて「ベイスターズ」の名を残したが、報道機関に載る通称名としては「DeNA」となってしまった感がある。このように、様々なものが商品化し、経済という枠組みの中に入れられているのが昨今である。

別に、自由主義経済的な論理からすれば、これらの事象は歓迎こそされ、批判はされない。エクスプレスパスは時間という希少価値のあるものに対価を払う行為と考えれば、誰も損をする人はいない。命名権の売買によって地域のスタジアムが維持され、野球チームが生き残りの道を示されるならば、スポンサーにとってもスポーツファンにとっても、これほど良いことはない。

しかし、本当にそれは妥当なことなのだろうか。例えば、それほど裕福でない人はUSJで長い列に並ぶ以外の選択肢は考えにくい。富の多寡によって、選択肢に差が出てしまうのは公正と言えるだろうか。また、スタジアムの命名権を競売にかけることに何の問題を感じないという人でも、もしも駅や公園、学校の命名権が競売にかけられたら、どう感じるだろうか。どこか納得のいかない思いに駆られるのではないだろうか。

本書は、後者の問題、すなわちどこか納得のいかない思いを「腐敗」、価値を卑しめ、侮辱する行為から由来するものとして扱い、道徳的な観点からの考察を試みる書である。日本以上に商業主義の進んだアメリカでは、現在の日本では売買の禁止されているものや、そもそも売買しようなんて思いもつかないようなことまでもが市場を通じて売買されている。安価でクラシック音楽を楽しんでもらうための音楽会のチケットが高値で売買されたり、子どもの命名権を競売に出したりといったことが世間で大きく問題になるくらいの国である。それ以外にも豊富な事例を知っていくうちに、経済的な思考だけでは解決できない問題があることが身に沁みてわかる。

もちろん、日米双方に当てはまるような事例は枚挙に暇がなく、同じように収拾がつかなくなりつつある問題はあるように思う。だが、まだ現時点ではアメリカほど商業主義が隅々までは浸透していない日本であるからこそ、考える余地はたくさん残されているように思う。戻ってこられないところまで行ってしまう前に、経済現象について道徳という観点から検討する機会が設けられるべきであろう。
PR

CATEGORY [ 社会・経済 ] COMMENT [ 0 ]
pagetop
<<『図ですぐわかる!日本100大企業の系譜』 | HOME | 『病む女はなぜ村上春樹を読むか』>>
コメント
コメント投稿














pagetop
FRONT| HOME |NEXT

忍者ブログ [PR]