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# 『学級崩壊立て直し請負人 菊池省三、最後の教室』
2016/07/03 18:58
学級崩壊立て直し請負人 菊池省三、最後の教室 吉崎エイジーニョ 新潮社 2015年



北九州市は、その土地が持つ歴史的背景ゆえに、他の地域とは比べものにならないほど、教育に困難が伴う。そんな地域で30年にもわたり小学校教員を務め、しかも荒れたクラスを立て直すスペシャリストとして奮闘してきた人物が、菊池省三だ。本書は、彼の教師生活最後の2年間の実践の記録である。

教員人生の後半は、6年生専門教員かというくらいに、6年生ばかりを担任してきた菊池先生だった。しかし、最後の2年間は違った。3月に6年生の卒業式を終えて、再び新6年生の担任になるのだろうと思っていた菊池先生に告げられたのは、新5年生の担任だった。かねてから「あの学年は菊池先生でなければ無理」と言われ続けてきた学年の問題児を選抜したクラス、菊池先生が言うところの「ヤンキース」を受け持つことになったのだ。これまでの4年間で担任教師たちが手を焼いてきた生徒たちに、菊池先生が立ち向かっていく。

本書は、本人によるものではなく、元教え子の吉崎エイジーニョ氏が取材してまとめたものである。そのため、教師側の判断、葛藤もさることながら、生徒側がどう思っていたのかについても書かれていて、実践の様子が様々な面から見られる。菊池先生が年度当初に考えていた作戦、初対面の時の生徒が持った印象、クラス内で起こった事件と、それに対する教員側、生徒側の意見など、学級の動きがとてもよくわかるのだ。また、菊池先生の教育を単に褒めたたえるのではなく、彼のちょっと強引さがある点、算数の授業は案外流すことも多かったという点を指摘するのなど、1人の教師という存在を描き出しているところも非常に興味深い。

本書で特に取り上げられたのが、トップレベルの問題児、堀之内君である。本書は、菊池先生の「集団の中で個を育てる」という教育哲学をいかに堀之内君に対して実践していったかの記録ともいえるくらいである。教師が一対一で指導に当たることもあるが、本書の中で目を引くのは、堀之内君が、クラスメイトによって褒められ、悪い点を指摘され、変化していきたいと思い、成長を見せていく記述である。これだけ情報技術が発達した今、学校教育の存在意義として考えられる最後の砦が、菊池先生の言う、「集団の中で個を育てる」という哲学に基づいた「公の場で通用する人間を育てる」という側面なのではないかと思う。
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# 『オタク女子研究 腐女子思想大系』
2016/06/14 05:17
オタク女子研究 腐女子思想大系 杉浦由美子 原書房 2006年



オタクと言えば、秋葉原、そしてそこに集まる熱狂的な男性を連想する人が多いが、それに負けずとも劣らない一大勢力を誇っているのが女性のオタク、腐女子である。しかし、女性のオタクは男性のオタクと比べてメディアへの露出が少なかったり、一見してわかるような見た目をしているわけでもない。普通に働いて普通に恋愛もする女性オタクの実態に迫った本。

男性との比較の中で浮き彫りになる女性オタクの生活、思想が見えてくる点が興味深い。現実の女性に幻滅して2次元の世界に走る男性オタクに比べて、女性の場合は萌えと恋愛は別腹と考えるという。また、女性の場合、仕事をする以上は一定水準以上のおしゃれを求められるがゆえに、極端にダサい恰好はできず、見た目からしてオタクっぽいと思わせる人はいないそうだ。なるほどなと思った。そして、腐女子を語る上では避けられない話題である性や恋愛に関する鋭い分析眼にはうならされる。

活字好きで教養豊かな面や、恋愛至上主義に異を唱える姿勢など、腐女子の実態をある意味魅力的に描いた本書から得られる新たな視点は多い。

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# 『嗚呼!花の予備校講師 ガテン系職業の実態と業界の行方』
2016/05/03 17:29
嗚呼!花の予備校講師 ガテン系職業の実態と業界の行方 鳥脇章宏 太陽企画出版 2002年



予備校講師や予備校の実態に迫り、さらには予備校業界の今後を考える本である。出版は10年以上前のことであるが、内容的には決して古さを感じない。筆者が本書で繰り返し述べるように、予備校業界は少子化と情報社会の煽りを受けて、縮小の一途を辿っている。特に、情報技術の発達の恩恵を受けた映像授業は、筆者が捉えていた以上に凄まじい進歩を遂げ、普及が進んでいる。ただでさえ限られたパイを奪い合う状況であるのに、生身の授業が減ってしまえば、大変な打撃である。相当な年収を得ている超有名講師がいる一方で、ワーキングプアとも言えるような生活しかできていない講師が数多く存在する。そんな厳しい現状が、予備校業界にはある。

授業準備の実態、社会にアンテナを張る努力など、生き残りのために筆者が行っている並々ならぬ努力も多く紹介されている部分は、予備校講師の苦労がわかるとともに、教育業界にいる者にとって大いに参考になる記述である。生徒や流行の理解に努めることで、現代の生徒に響く説明法、指導法を見出すことができるのだ。

このように書いていると、予備校の大変さだけが書かれているようにも思えるが、決してそんなことはない。自分の腕一本で生きていく潔さ(だからこそ、本書の副題には「ガテン系職業」という言葉が使われているのだ)、安定で決められた道を進むことを拒み、アウトローでいられる環境など、予備校講師という職業の魅力も感じられる。

予備校という環境と、そこで教える講師という職業について余すことなく語っている、読み応えのある1冊。

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# 『ヒトの本性 なぜ殺し、なぜ助け合うのか』
2016/02/19 17:42
ヒトの本性 なぜ殺し、なぜ助け合うのか 川合伸幸 講談社現代新書 2015年





人間の攻撃性について、これまでに蓄積されてきた心理学分野の実証的な研究を概観し、人間の本性とは何かを探る本。メディアを通して暴力に触れることの影響、闘争遺伝子の真実、性差から互恵行動に至るまで、人間の攻撃性について様々な考察がめぐらされる。

古くから知られる実験から、最新の脳科学的な手法を用いた研究、進化心理学からの知見まで紹介されていて、これまで心理学の分野が攻撃性についてどのような研究を行ってきたかが概観できる。

人間は最近になって、凶悪事件を引き起こすなど、ますます暴力的になっているという見方がなされることはあるが、筆者の見解では、そのようなデータはなく、むしろ人間の世界は平和な方向に向かっていると考えられるそうだ。まさに、人間性とは何かについて考える材料に満ちた本である。

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# 『指と耳で読む ―日本点字図書館と私―』
2016/02/19 17:07
指と耳で読む ―日本点字図書館と私― 本間一夫 岩波新書 1980年



東京、高田馬場の地には、日本点字図書館という施設がある。全国の視覚障害者に向けて点字図書や録音図書の貸し出しを行っている。本書は、その日本点字図書館の創設の中心にいた人物、本間一夫氏が自らの人生を振り返り、点字図書館と共に歩んできた日々について語った伝記である。

幼少期の失明経験から始まり、盲学校時代、大学時代、そして点字図書館の拡充期に至るまでの過程には、幾何の困難があり、一方で様々な人の支えがあったことがひしひしと伝わる。特に戦争に向かって物資が不足し、人々の生活や心にも余裕がなくなっていった時代でも、必死に図書館を守りぬいた著者の姿勢と、ひたむきに点訳に取り組んでいったボランティアの方々の姿勢には、本当に頭の下がる思いである。

驚きなのは、視覚障害者への図書提供という極めて公共的な性格を持ったこの事業が、初めは何ら国からの援助もなく始まった点であろう。草の根レベルから立ち上がった事業が徐々に世間に認知され、国からの予算も付くようになった過程に関わった人々の功績は、まさに奇跡と呼べるのではないだろうか。

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# 『教師はサービス業です 学校が変わる「苦情対応術」』
2016/02/19 16:44
教師はサービス業です 学校が変わる「苦情対応術」 関根眞一 中公新書ラクレ 2015年



恐るべきモンスターペアレントによって次々と追いつめられる教師…といった言い方がよくなされる。しかし、筆者は教師に対してサービス業として開き直り、苦情対応の腕を上げるべきであると提言する。それは、決して教師に対して無理強いをするという方法によってではなく、一般企業での苦情対応のプロとして、苦情を顧客の満足へとつなげていくにはどうすればよいかを教授するという方法によってだ。

相手のおかしいところには毅然と立ち向かい、その上で相手の要求を理解し、突破口を見出すのは容易に身に付く技術ではないと思うが、教育の場においては「子どものためにはどうするか」という終着点があるだけに、的は絞りやすいと言えるのかもしれない。

あくまで大事なのは「サービス業としての開き直り」なのだと思うと、肩の荷が降りるように思える教師も多いような気がする。

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# 『23区格差』
2016/02/12 23:00
23区格差 池田利道 中公新書ラクレ 2015年



様々な分野が東京、特に23区に集中し、地方の未来が憂える中、あえて東京23区内の格差に言及し、一人勝ちしたものとして今後の都市生き残り戦略を先導していくためのヒントを得ようとしたのが本書である。裕福な層が郊外に大きな家を構え、都市部には貧しい人々が集まるという傾向を持ったアメリカとは異なり、23区の山の手地域には極めて裕福な人々が暮らす。これは本書内で指摘されることであり、言われてみてふと気付いたことである。確かに、東京は他の都市とは異なった独特な進化の道を辿っているのかもしれない。本書の一貫した姿勢は、常識を覆すことである。多くの人が各区に対して持っている一般的なイメージや、誰もが注目する数字に関してどうこう言うのではなく、新たな視点を得られるようなデータに重点が置かれている。テーマは23区の格差ではあるが、ここから都市の在り方について考えをめぐらすことは十分可能だ。定住者が増えればよい街になるのか。子どもの数が増えれば少子化は解消するのか。いずれも、意外な結論が待っている。

ちなみに、「23区の通信簿」という形で、各区に関するコメントが述べられている。AランクからDランクまで格付けされていて、特に23区民は気になるところであろうが、この格付けは、ある雑誌で行った区の知名度ランキングをもとにしたものに過ぎない。必ずしも区の実力とは一致しないので安心されたい。筆者はもとは地方の創生にも関わってきた人物だけに、弱い区に甘く、強い区に厳しいという立場でコメントしていると明言している。

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# 『教育という病 子どもと先生を苦しめる「教育リスク」』
2016/02/12 22:27
教育という病 子どもと先生を苦しめる「教育リスク」 内田良 光文社新書 2015年



大阪市教育委員会は、来年度以降、組体操の規制へと踏み出した。本書の筆者は、これまで組体操の危険性について情報発信してきた。本書は2015年度に発売された光文社新書の中ではトップレベルの売り上げを記録したものであり、今回の教育委員会の判断には、本書の影響が少なからずあるのではないかと考える。組体操を始め、教育実践の中にある「良いもの」「感動的なもの」に我々は目を眩まされ、その裏に潜む多大なリスクについては全く盲目なのではないか。それが本書で一貫して展開される議論である。

学校という空間には、組体操、2分の1成人式、運動系部活動での体罰など、多大なリスクを抱えながらも教育の場ゆえに許されてしまう取り組みが、数多く存在する。しかし、組体操や部活動の裏には生命を脅かすような危険性があり、2分の1成人式の裏には親子の絆を過剰なまでに讃え、親子の関係に悩む子どもを排除する無神経さがある。そのように、筆者は美談の裏に隠された危険をデータを用いて示し、解決に向けての行動を訴える。また、子どものためにという名目のもと、過酷な労働環境に晒される部活動顧問の実態についても取り上げ、社会そのものもまた「感動」という言葉に踊らされながら、教育現場の闇を直視せずにいると主張する。

教育は、社会からの期待も大きい分野だけに、他の分野では考えられないような非常識も容易に通ってしまう恐ろしさを常に内包している。社会が教育に対して期待するのであれば、その分教育について広い視野から議論し、異常事態に対しては物申せる土壌を作っていくしかないであろう。

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# 『エヴァンゲリオン化する社会』
2016/02/03 21:12
エヴァンゲリオン化する社会 常見陽平 日経プレミアシリーズ 2015年



エヴァンゲリオンの放送開始20周年、そして作品が舞台となる年である2015年に発売された本書は、エヴァンゲリオンを通して現代社会の労働について語ろうという意欲作である。いわゆる「セカイ系」に分類される作品と労働という、いかにも無関係そうなテーマだが、この視点はなかなかに興味深い。

決して報われることのない労働に対して、自分なりの価値を見出して逃げずに必死に戦い続ける14歳の少年少女、最も出世したと思われるキャリアウーマンの宿命を体現しているかのようなアラサー女性などは、現代の社会が生み出した過酷な労働条件のもと生きる人々を描いているようだと筆者は語る。なるほど、他より優れた特別な力を持った人間であることを期待され、それでいて自分の代わりはいくらでもいると言われ、日々プレッシャーに怯える人々、明らかにブラックな労働環境でもそこに意義を見つけて逃げ出さずに働くことを求められる人々、女性の社会進出が推進される社会でバリバリ働く女性など、作品の登場人物達とシンクロするような環境で働く人々は少なからずいるように思える。

おそらく、当時の制作者達にそのような意図があったとは思えないが、エヴァンゲリオンにこんな読み方もあったのかと思わせてくれた。

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# 『〈できること〉の見つけ方― 全盲女子大生が手に入れた大切なもの ―』
2016/01/05 10:46
〈できること〉の見つけ方― 全盲女子大生が手に入れた大切なもの ― 石田由香理・西村幹子 岩波ジュニア新書 2014年



「周囲の人を引き付ける不思議な人間力を持っている」とは、大学の先生が著者の石田さんについて推薦状の中で書いた文言であるそうだ。本書を読んでいると、その言葉にも納得がいく。教育熱心な家庭に生まれ、優秀な兄、姉と比較されて何もできないと言われ続けた家庭での日々、中高時代の思い出、辛かった浪人時代、大学入学後に感じた周囲との壁、そして、フィリピンへの渡航をきっかけに手にした、必要とし、必要とされることの価値といった、著者の半生(というよりも現時点での全人生)を形作るに至ったことを語る筆致には、読む者を掴んで離さない魅力がある。

障害を持つと、どうしても周囲の人に頼らざるを得ない場面が多くなる。石田さんがずっともどかしさを感じていたことは、周囲に助けられる代わりに、自分には何ができるのかという問いに対する答えが見つからないことであった。しかし、互いに支え合う、必要とし必要とされる関係を築く経験を重ねるにつれ、石田さんという人間に変化が生まれた。

障害に限らず、社会に生じる不平等を扱うのに必要な視点は、援助や支援といった、いわば上から目線のものでは不十分で、皆が相互に与え合う関係を作れる環境を整え、不平等を生じさせている社会の仕組みを見直していくことであると、共著者の西村先生は結ぶ。真の意味での平等、対等、公平とは何か。すぐには答えの見出せない問いへと向かっていかなければならないと意識させられる。

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