教育という病 子どもと先生を苦しめる「教育リスク」 内田良 光文社新書 2015年
大阪市教育委員会は、来年度以降、組体操の規制へと踏み出した。本書の筆者は、これまで組体操の危険性について情報発信してきた。本書は2015年度に発売された光文社新書の中ではトップレベルの売り上げを記録したものであり、今回の教育委員会の判断には、本書の影響が少なからずあるのではないかと考える。組体操を始め、教育実践の中にある「良いもの」「感動的なもの」に我々は目を眩まされ、その裏に潜む多大なリスクについては全く盲目なのではないか。それが本書で一貫して展開される議論である。
学校という空間には、組体操、2分の1成人式、運動系部活動での体罰など、多大なリスクを抱えながらも教育の場ゆえに許されてしまう取り組みが、数多く存在する。しかし、組体操や部活動の裏には生命を脅かすような危険性があり、2分の1成人式の裏には親子の絆を過剰なまでに讃え、親子の関係に悩む子どもを排除する無神経さがある。そのように、筆者は美談の裏に隠された危険をデータを用いて示し、解決に向けての行動を訴える。また、子どものためにという名目のもと、過酷な労働環境に晒される部活動顧問の実態についても取り上げ、社会そのものもまた「感動」という言葉に踊らされながら、教育現場の闇を直視せずにいると主張する。
教育は、社会からの期待も大きい分野だけに、他の分野では考えられないような非常識も容易に通ってしまう恐ろしさを常に内包している。社会が教育に対して期待するのであれば、その分教育について広い視野から議論し、異常事態に対しては物申せる土壌を作っていくしかないであろう。
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