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# 『キャリア教育のウソ』
2013/10/09 23:37
キャリア教育のウソ 児美川孝一郎 ちくまプリマー新書 2013年



自分のやりたいことを思い描き、そこから職業調べを行い、自分の就きたい職業を見つける。極め付けには、職場体験やインターンシップに臨み、現場を体験する。そんな過程を通じて「職業観を養う」ことや「勤労の尊さを学ぶ」ことを目指すのが、キャリア教育の一般的な方法である。筆者は、そのようなキャリア教育を一刀両断し、表面的ではない真のキャリア教育を提案する。

近年、急速に勢いを増しているのが、キャリア教育である。混迷を極める世の中で、どう生きるのかを考えるのは、とても大切なことだが、本質を見極めた教育を受けなければ、あるいは自分の頭をしっかりと働かせなければ、せっかくの試みも無意味に終わってしまうだろうというのが、筆者の見方である。筆者の指摘は、かなり納得がいく。例えば、いざ非正規雇用になってしまった場合の生き方については何も示唆を与えない教育、「やりたいこと」を中心に据え、社会経験の少ない学生の知識から職業を選ばせる教育、先の見えにくい現代を生きる若者に「キャリア・プラン」を作らせようとする教育… これらの取り組みにはキャリア教育のほころびが感じられる。

ただし、本書は現場のキャリア教育の実践をただ批判するだけではない。現実的な取り組みの中で、優れたものはしっかりと紹介しているし、定番のキャリア教育も、向き合い方を工夫すれば、とても有益になるというアドバイスもしてくれている。そもそも、キャリア教育の発生には、若者の就労支援や就職率アップといった社会の要請も大きく関わっている。

キャリア教育は、一部の人間が担うものではないと、本書を読んで強く感じた。学校現場のスタッフや現役の学生以外にも、本書に目を通す人が増えれば、世の中のキャリア観に変化が生まれるであろう。
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# 『すべての婚活やってみました』
2013/10/06 17:30
すべての婚活やってみました 石神賢介 小学館101新書 2013年



著者は、30代でバツイチになった、フリーランスのライター。以後婚活を試みるが、失敗は続き、ついに50代を迎えてしまった。本書は、著者の数々の失敗談と、交際まではたどり着いた成功談を基に、婚活のツール活用法や、活用時の注意点までがまとめられた本である。

本書を読むと滲み出てくるのが、婚活の難しさだ。結局のところ、婚活を必要としている人々は、何らかの点でパートナー探しに難を抱えていたり、交際がうまくいかないからこそ、婚活に頼らざるを得ない面があるからだ。そんな男女が互いに結婚に結びつく関係を構築しようというのだから、円滑に進むことなどまずない。カバーの案内には「抱腹絶倒のエピソード」と書いてあるが、おそらく本書の記述を笑い飛ばせるのは、婚活など必要としたことのないほど出会いや男女交際に困ったことのない人か、著者の行動があまりに自分と重なりすぎて、思わず自虐も込めたおかしさを感じられる人だけではないだろうか。今まさに切実な思いでいる人にとっては、それほど笑えないのではと思ってしまう(もちろん、著者はプロの物書きなので、所々に見られる、婚活スタッフへの皮肉を込めた描写などには心から笑える)。

婚活は、社会問題の縮図である。多くの結婚適齢期の人々が結婚しなかったり、できなかったりなのは、雇用の問題、社会保障の問題など、現代社会の諸問題が影響している面は大きい。本書は、別に問題の解決を目的に書かれたものではないが、婚活の現状を知ることを通して、現代社会を見る目を養うことができると思う。

CATEGORY [ 社会・経済 ] COMMENT [ 2 ]
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# 『俺の教室にハルヒはいない』
2013/09/18 23:49
俺の教室にハルヒはいない 新井輝 角川スニーカー文庫 2013年



学園モノアレルギーの男子高校生、ユウの席は「涼宮ハルヒの憂鬱」のキョンと同じ位置。しかし、現実にハルヒに出会うはずはなく、ハルヒの席に当たる真後ろの席はずっと空席のままであった。ある日、ユウは幼馴染みのカスガが声優を目指していることを告白され、カスガを応援することを誓う。カスガを送ったユウは、偶然出会ったアニメ脚本家のマコトに食事に誘われる。そして、そこからユウの生活は変化していくのだった。オタク仲間との出会い、アイドル声優であるアスカとの出会い… これらの出来事は、確実にユウの心を変えていく。

「涼宮ハルヒの憂鬱」10周年の記念の年に発売されたのは、衝撃のタイトルの作品だった。しかも、タイトルの通り、作中に宇宙人や未来人や超能力者は出てこない。むしろ、「ただの人間」に関心を示すアスカに、学園モノすなわち特別な高校生活に憧れる気持ちなど一切持たない主人公と、まるで正反対な人間が描かれる。

波戸岡景太『ラノベの中の現代日本』によると、2000年代以降のライトノベルの特徴は、かつてはオタクだったが今ではそんな自分の過去と決別した人物を主人公に据えている点にあるという。しかし、本作の主人公はそれを超えて、もはやオタク的なものとは無縁の人物である。「ハルヒ」発売から10年の月日が流れた今、ラノベの主人公像には新たな波が生まれつつあるのかもしれない。もちろん、なんだかんだで主人公の男が様々な女性に好かれていくというハーレム設定は本作でも継承されている気はするが。

果たして、本作はライトノベル界に新たな旋風を巻き起こす作品となるのか。今後の行く末を見守っていきたい。

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# 『先生!』
2013/09/11 21:36
先生! 池上彰 編 岩波新書 2013年



「先生!」という言葉から思いつくエピソードとはという質問をぶつけ、集められた27人からの回答。様々な職業・境遇の人々が縦横無尽に語る先生の姿は、それぞれの人物にとっての教育観を映し出す鏡のようだ。27人の語る先生像はまちまち。プラスの印象もあれば、マイナスの印象もあり、人生に大きな影響を与えた場合もあれば、大して記憶に残っていない場合もある。教師の鑑とも言うべき素晴らしい先生の話もあれば、結果的に反面教師という形で生徒の人格形成に関わった先生の話もある。

どんな教師が良いのかという問いに対して、明確な解答を示すことはできない。本書を読み終えた後に抱いた率直な感想だ。27人のエピソードの中には、学ぶ喜びによって人間が変わっていく姿を描いた教育の根幹に触れるような珠玉のエピソードもあり、心動かされるものがいくつもあった。反面、最後の池上氏と大田光氏の対談で話題になったように、教育に期待しすぎることに対する批判と思える文章もあり、教育の難しさを改めて実感した。

ただ1つ言えることとしては、自分なりの信念を持って教育に当たる先生は強いということである。確固たる信念を持ってすれば、たとえ正の方向であっても負の方向であっても、学んだ生徒は確かに自分の道を見出して歩いていけるような気がする。

今、まさに教育という世界で学ぶ立場にいる者や、その保護者にとっては、少し離れた視点から教育を眺め、本書を心にゆとりを持つ契機としてもらいたい。そして、現役の先生には、自らの進む道を考える参考にしてもらいたい。

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# 『教師の資質 できる教師とダメ教師は何が違うのか?』
2013/09/04 23:52
教師の資質 できる教師とダメ教師は何が違うのか? 諸富祥彦 朝日新書 2013年



疲弊した空気に包まれる教育現場。その実態は、教師の中で鬱病になる者の割合が他の業種と比べて2.5倍という数値からも窺える。それでいて、現場はいじめなど、子ども達が活き活きと学校生活を送る場とは言い難い惨状に見舞われ、それに追い討ちをかけるような、保護者、教師、地域社会の関係の崩壊など、現代の教育が抱える問題はあまりにも大きい。本書は、熾烈を極める教育現場で前線に立つ教師に求められる資質について述べ、教師、保護者、地域社会など、教育に関わるおよそすべての人々に教育のあり方について正しい認識を持って行動して欲しいという願いから生まれたものである。

「教師の資質」というタイトルから推測されるとおり、本書の大半を占めるのは、現代の教員に求められる能力、思考法、知識についての筆者の持論である。特に、困難さを極める人間関係の問題について、多くの紙面が割かれている。そこでは、時に現場の教員にとっては耳の痛くなるような話さえある。しかし、筆者があとがきで述べているように、それは教師以外の人間にも教師を正しく理解してもらい、教師が無用のクレームや批判に晒されるのを防ぎたいという筆者の思いあってのこと。筆者は、9割方の教師は熱心で情熱を持って仕事に取り掛かっていると、経験から感じているのだ。長年カウンセリングに携わってきた筆者だけあり、その視点からの提言には説得力がある。子どもに関わるすべての人間が、それぞれの立場で本書に触れたら、きっと今の教育現場に温かみが生まれるのではないかと思わせてくれる。

ちなみに、教科指導を通した教育という観点からは、あまり多くのことは語られていない。本書が焦点を置いているのは、あくまで「心」の面である。それが現代の教育においてとても大切なのは事実だが、教科指導の意義、教科指導の専門家としての教師の役割は、現代社会においては、むしろ大きくなっているように思う。特に高校では、教科指導を通した全人教育という視点が欠かせないであろう。その点は、むしろ近年ブームの熱い予備校教師から学んだほうが良いのだろうかと思ってしまった。

現場の悩める教師にとっては、随所に書かれた懸命に働く教師へのエールが、心に響くことだろう。教師としての仕事に疲れた時に、是非紐解いてもらいたい本でもある。自分だけが悩んでいるのではないと知るだけで、随分と気が楽になるものだから。

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# 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』
2013/06/05 20:50
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 渡航 小学館ガガガ文庫 2011年



青春、友情、恋愛…夢の高校生活とは縁遠い学校生活を送り、ひたすら「ぼっち」を貫くひねくれ高校生、比企谷八幡が、担任の教師、平塚静に連れてこられたのは、学校一の美少女である雪ノ下雪乃が所属する「奉仕部」であった。謎の部活動の正体は、たまに訪れる依頼者の願いを聞き入れ、叶えるお手伝いをすること。依頼人として奉仕部を訪れたことをきっかけに、個性豊かな生徒達が、八幡の周囲に集まるようになる。現在アニメ放映中の作品の原作。

近年、すっかり定着した感のある言葉、「スクール・カースト」。本作は、いわばそのカーストの最下層に位置する人々、「ぼっち」を主人公に据えた物語である。主人公の比企谷八幡は、独りでいることを恐れない。周囲に対してとても卑屈な態度を取るが、その裏には人間関係を巧みに読み取り、適した行動を選択する賢さと、同じぼっち系の人々や人間関係に悩む者への優しさがある。

本作の1番の魅力は、スクール・カーストの最下層から述べた、カーストのくだらなさ、辛さ、そしてそれを斜め下からの視点で見つつ独自の視点で乗り越えている八幡の存在そのものであろう。彼の独白は、卑屈な態度を呈しているが、カーストが下の者からすれば、それはまさに魂の叫び。カースト制度に苦しむ者は、八幡の言葉に生き抜くヒントをもらい、勇気付けられるのではないだろうか。そして、本作のヒロイン、雪ノ下雪乃の存在も欠かせない。彼女もまた、完璧な美少女ゆえに背負わされた孤独な運命を抱えている。2人の独りぼっちが関わることで生まれる相互作用が作品の核である。

ちなみに、登場人物には、雪ノ下雪乃や由比ヶ浜結衣、葉山隼人など、苗字と名前で同じ音が繰り返される独特なネーミングが多い。そういえば、作者名自体、「わたりわたる」と、同じ音が続いている。

作者は1987年生まれと、管理人と同年代。それだけに、数々のネタの元ネタが、面白いくらいによくわかってしまう。アニメではカットされているものも多く、「これ、今の高校生や中学生には理解できるのかな?」と思いつつ、笑わせてもらった。

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# 『女子校力』
2013/05/04 22:51
女子校力 杉浦由美子 PHP新書 2013年



「女子校離れ」あるいは「共学志向」という言葉が囁かれて久しい。中学受験をするお嬢様方は、どうも女子校に対するイメージが悪く、共学校を志望する傾向が強いらしい。そんな世の中だからこそ、女子校の実態を解明する本があっても良いのではないか。本書は、78名の女子校卒業生と在校生に取材した成果を纏め上げ、女子校出身者の特徴について考察したものである。

以前本ブログでも取り上げた『女子校育ち』が、女子校の実態をざっくばらんに語ったものだとすれば、こちらは分析的な視点も加えた内容になっている。たとえば、女子校の雰囲気とスクール・カーストとの関係、共学校の出身者との本質的な違い、職場での様子などだ。特に、スクール・カーストに関する記述は、さすがオタク関係の書物も出版している筆者だけあり、鋭い視点から詳細に論じている。

本書を読んで、女子校も捨てたものではないのではないかと思った。男性の目を気にしなくてすむ分、思う存分に自分の好きなことに没頭できるし、何部に所属しようと周囲からとやかく言われることはない。多少男性との付き合い方が不器用でも、その姿を可愛いと思ってくれる男性はきっと少なからずいるのではないかと思う。「空気を読まない」と揶揄されようと、これからの時代に必要なのは、むしろ思い切って出る杭になることだと割り切れば良い。本書を読み進めていくと、タイトルの「女子校力」という意味が少しずつわかってくる。女子校出身者よ、今こそ立ち上がれ!そんなメッセージを発したくなった。

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# 『若者のホンネ 平成生まれは何を考えているのか』
2013/01/25 22:41
若者のホンネ 平成生まれは何を考えているのか 香山リカ 朝日新書 2012年



平成という時代に入り、もはや四半世紀が過ぎようとしている。この時代に生を受けた若者は、何を考え、どんな生き方をしているのか。精神科医として、また、大学教授としての経験を元に、香山リカが語る。

最近の若者について、肯定的な観点も否定的な観点も取り入れながら、様々な傾向について語る著者。「最近の若者は・・・」と否定的に語られることの多い現象も、そこにある若者の思考を踏まえて捉えれば、むしろ「こんな社会に誰がした」と言いたくなるような、閉塞感に満ち、希望の見えにくい社会の状況が裏にあることもわかってくる。

そして最後、家事を進んでこなす若い男性や、死生学に熱心に取り組む若者の姿を述べた項目は、平成生まれの若者に対する希望に満ちている。年配の方も、どうかこの本を読み、安易に若者を否定することなく付き合って欲しいと思う。

この本では、上の年代が果たすべき役割についても、きちんと述べられている。疲れた若者の心にそっと寄り添える、粋な大人になれる方法も学べるのではないだろうか。

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# 『錯覚学-知覚の謎を解く』
2013/01/02 17:55
錯覚学-知覚の謎を解く 一川誠 集英社新書 2012年



世の中に溢れる錯覚。それは、実験室で扱われるものだけではなく、また、面白いものだけでもない。錯覚は、身の周りに溢れるものであるし、社会的な文脈で捉えなければならないものである。本書を読んでいて、そのように感じざるを得なかった。

確かに、錯視の現象自体は面白い。同じ長さの線分がどう見ても長さが違うように見えたり、同じ濃さの四角形が違う濃さに見えてしまったりと、錯視に関わる図形や画像を見ていると、びっくりするような体験ができる。

しかし、著者が繰り返し述べているように、現代人が身に付けた錯視は、これまでの進化の過程ではむしろ適応的であったが、高度に技術が発達した現代においては、事故を引き起こす可能性がある。例えば、錯視が原因で交通事故が起こることは十分考えられる。また、スポーツの判定など、時に国際問題にもなりかねない場面など、錯視の影響を無視できない状況は多々ある。

単に現象を紹介するだけでなく、錯視が持つ社会的意味合いについての考察も充実しているのが、本書のウリだ。本書を通して、人間の認知について考える一歩としたい。

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# 『危ない私立大学 残る私立大学』
2012/08/12 10:55
危ない私立大学 残る私立大学 木村誠 朝日新書 2012年



著者の予想によると、今後10年で私立大学100校以上が消えてしまうという。受験生の心情としては、自分の受験する大学がそう簡単に消えてなくなってしまっては困るであろうし、大学のOB・OGの立場からしても、母校の消える寂しさは想像に難くない。学生数や教育研究費といった、筆者なりの分析指標を用いたサバイバル度ランキングに、高校のお薦めなども加味し、私立大学の生き残り可能性について議論する。

どんな場合であっても、評価するには基準が必要であるし、その基準が妥当であるかの検討は必要であろう。例えば、本書でも結局のところは大都市圏にキャンパスを構えた大きな大学ほど上位にランクインする傾向がある。しかし、それを言っていては始まらない面もある。筆者なりの基準で選ばれた数値を受け入れ、分析をじっくりと読んでこそ、本書の価値があると言える。

また、本書で注目すべき点は、地方で頑張っている私立大学を評価している点である。元々、募集には苦労する地方私立大学にも、優れた取り組みをして、受験生の信頼を得ている大学が存在する。地元志向が高まる現在、地方の元気印にも頑張ってもらいたい。

絶えず変化する社会のニーズに対応しつつ、どこまで社会に媚びすぎずに自分達の姿勢を貫いていくか。私立大学の直面する問題は、我々国民に対する問いかけでもある。

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