教師の資質 できる教師とダメ教師は何が違うのか? 諸富祥彦 朝日新書 2013年
疲弊した空気に包まれる教育現場。その実態は、教師の中で鬱病になる者の割合が他の業種と比べて2.5倍という数値からも窺える。それでいて、現場はいじめなど、子ども達が活き活きと学校生活を送る場とは言い難い惨状に見舞われ、それに追い討ちをかけるような、保護者、教師、地域社会の関係の崩壊など、現代の教育が抱える問題はあまりにも大きい。本書は、熾烈を極める教育現場で前線に立つ教師に求められる資質について述べ、教師、保護者、地域社会など、教育に関わるおよそすべての人々に教育のあり方について正しい認識を持って行動して欲しいという願いから生まれたものである。
「教師の資質」というタイトルから推測されるとおり、本書の大半を占めるのは、現代の教員に求められる能力、思考法、知識についての筆者の持論である。特に、困難さを極める人間関係の問題について、多くの紙面が割かれている。そこでは、時に現場の教員にとっては耳の痛くなるような話さえある。しかし、筆者があとがきで述べているように、それは教師以外の人間にも教師を正しく理解してもらい、教師が無用のクレームや批判に晒されるのを防ぎたいという筆者の思いあってのこと。筆者は、9割方の教師は熱心で情熱を持って仕事に取り掛かっていると、経験から感じているのだ。長年カウンセリングに携わってきた筆者だけあり、その視点からの提言には説得力がある。子どもに関わるすべての人間が、それぞれの立場で本書に触れたら、きっと今の教育現場に温かみが生まれるのではないかと思わせてくれる。
ちなみに、教科指導を通した教育という観点からは、あまり多くのことは語られていない。本書が焦点を置いているのは、あくまで「心」の面である。それが現代の教育においてとても大切なのは事実だが、教科指導の意義、教科指導の専門家としての教師の役割は、現代社会においては、むしろ大きくなっているように思う。特に高校では、教科指導を通した全人教育という視点が欠かせないであろう。その点は、むしろ近年ブームの熱い予備校教師から学んだほうが良いのだろうかと思ってしまった。
現場の悩める教師にとっては、随所に書かれた懸命に働く教師へのエールが、心に響くことだろう。教師としての仕事に疲れた時に、是非紐解いてもらいたい本でもある。自分だけが悩んでいるのではないと知るだけで、随分と気が楽になるものだから。
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