キャリア教育のウソ 児美川孝一郎 ちくまプリマー新書 2013年
自分のやりたいことを思い描き、そこから職業調べを行い、自分の就きたい職業を見つける。極め付けには、職場体験やインターンシップに臨み、現場を体験する。そんな過程を通じて「職業観を養う」ことや「勤労の尊さを学ぶ」ことを目指すのが、キャリア教育の一般的な方法である。筆者は、そのようなキャリア教育を一刀両断し、表面的ではない真のキャリア教育を提案する。
近年、急速に勢いを増しているのが、キャリア教育である。混迷を極める世の中で、どう生きるのかを考えるのは、とても大切なことだが、本質を見極めた教育を受けなければ、あるいは自分の頭をしっかりと働かせなければ、せっかくの試みも無意味に終わってしまうだろうというのが、筆者の見方である。筆者の指摘は、かなり納得がいく。例えば、いざ非正規雇用になってしまった場合の生き方については何も示唆を与えない教育、「やりたいこと」を中心に据え、社会経験の少ない学生の知識から職業を選ばせる教育、先の見えにくい現代を生きる若者に「キャリア・プラン」を作らせようとする教育… これらの取り組みにはキャリア教育のほころびが感じられる。
ただし、本書は現場のキャリア教育の実践をただ批判するだけではない。現実的な取り組みの中で、優れたものはしっかりと紹介しているし、定番のキャリア教育も、向き合い方を工夫すれば、とても有益になるというアドバイスもしてくれている。そもそも、キャリア教育の発生には、若者の就労支援や就職率アップといった社会の要請も大きく関わっている。
キャリア教育は、一部の人間が担うものではないと、本書を読んで強く感じた。学校現場のスタッフや現役の学生以外にも、本書に目を通す人が増えれば、世の中のキャリア観に変化が生まれるであろう。
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