錯覚学-知覚の謎を解く 一川誠 集英社新書 2012年
世の中に溢れる錯覚。それは、実験室で扱われるものだけではなく、また、面白いものだけでもない。錯覚は、身の周りに溢れるものであるし、社会的な文脈で捉えなければならないものである。本書を読んでいて、そのように感じざるを得なかった。
確かに、錯視の現象自体は面白い。同じ長さの線分がどう見ても長さが違うように見えたり、同じ濃さの四角形が違う濃さに見えてしまったりと、錯視に関わる図形や画像を見ていると、びっくりするような体験ができる。
しかし、著者が繰り返し述べているように、現代人が身に付けた錯視は、これまでの進化の過程ではむしろ適応的であったが、高度に技術が発達した現代においては、事故を引き起こす可能性がある。例えば、錯視が原因で交通事故が起こることは十分考えられる。また、スポーツの判定など、時に国際問題にもなりかねない場面など、錯視の影響を無視できない状況は多々ある。
単に現象を紹介するだけでなく、錯視が持つ社会的意味合いについての考察も充実しているのが、本書のウリだ。本書を通して、人間の認知について考える一歩としたい。
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