俺の教室にハルヒはいない 新井輝 角川スニーカー文庫 2013年
学園モノアレルギーの男子高校生、ユウの席は「涼宮ハルヒの憂鬱」のキョンと同じ位置。しかし、現実にハルヒに出会うはずはなく、ハルヒの席に当たる真後ろの席はずっと空席のままであった。ある日、ユウは幼馴染みのカスガが声優を目指していることを告白され、カスガを応援することを誓う。カスガを送ったユウは、偶然出会ったアニメ脚本家のマコトに食事に誘われる。そして、そこからユウの生活は変化していくのだった。オタク仲間との出会い、アイドル声優であるアスカとの出会い… これらの出来事は、確実にユウの心を変えていく。
「涼宮ハルヒの憂鬱」10周年の記念の年に発売されたのは、衝撃のタイトルの作品だった。しかも、タイトルの通り、作中に宇宙人や未来人や超能力者は出てこない。むしろ、「ただの人間」に関心を示すアスカに、学園モノすなわち特別な高校生活に憧れる気持ちなど一切持たない主人公と、まるで正反対な人間が描かれる。
波戸岡景太『ラノベの中の現代日本』によると、2000年代以降のライトノベルの特徴は、かつてはオタクだったが今ではそんな自分の過去と決別した人物を主人公に据えている点にあるという。しかし、本作の主人公はそれを超えて、もはやオタク的なものとは無縁の人物である。「ハルヒ」発売から10年の月日が流れた今、ラノベの主人公像には新たな波が生まれつつあるのかもしれない。もちろん、なんだかんだで主人公の男が様々な女性に好かれていくというハーレム設定は本作でも継承されている気はするが。
果たして、本作はライトノベル界に新たな旋風を巻き起こす作品となるのか。今後の行く末を見守っていきたい。
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