ポエムに万歳! 小田嶋隆 新潮文庫 2016年
実は、表題となっている「ポエム」に関する論考は、第1章の半分に過ぎず、残りは別の内容のコラムをまとめたものである。「ポエム」とは、身の回りに溢れる、恥ずかしげもなく自分語りに没頭したフレーズのことである。筆者は、それが蔓延する現代日本のおかしさについて語っていくのだ。実際のところ、筆者自身が指摘しているように、「ポエム」と詩の境界は非常に曖昧である。広告に用いられるフレーズや、J-POPの歌詞でさえ、「ポエム」になりえる。あまり正確な定義がなされていない言葉を利用して語るというのもちょっと…という気はするが、言いたいことはわかる。過剰な感情表現や感動を狙ったような言葉の数々には、何か胡散臭いものを感じることはあるものだ。この異常なまでの感情的な自分語りについては、かつてテレビ番組が居酒屋甲子園の様子を映した映像とともに、ポエム化する社会を異様なものとして報じていた。バイトに「成長」や「仲間」を見出すことで、ブラックバイトと言えるような現状をあえて肯定するような、異様な雰囲気を感じたのを覚えている。
ポエム以外の論考では、ネットの発達による、嫉妬が表立って渦巻くようになった社会や、事実無根の誹謗中傷が与える影響の大きさ、食品偽装が生じる原因などがある。筆者本人が言うように、コラムに求められる、一般とはちょっと違った視点に満ちた論考には、なるほどと思わされる。ポエムの論考が1冊になっていると勘違いして購入してしまったのだが、むしろポエム以外の論考で十分楽しませてもらった。
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