本当はひどかった昔の日本―古典文学で知るしたたかな日本人― 大塚ひかり 新潮文庫 2016年
「昔の日本は素晴らしかった。それなのに、現代の日本と言えば…」と言われることは多いが、本当にそうなのであろうかと、古典文学を紐解きながら意義を唱える本である。なんてことはない。古典文学に描かれている時代であっても、育児放棄や殺人はあった。また、現代以上に弱者に否定的で、女性に対する見た目重視発言が許されてもいたのだ。およそ現代人が考え得る残酷な事件や問題は、過去の時点で既に存在していたというのが、筆者の意見。読むと単純なノスタルジーに浸ることがどれだけ馬鹿馬鹿しいのか、実感できる。
しかし、本書の魅力はそこだけではない。解説を書いている清水義範氏も言うように、古典作品から現代を考えるというのが本書のメインテーマであっても、語りの中に古典文学の魅力がしっかりと取り入れられていて、自然と読者が古典文学に興味を持つように書かれているのだ。
こんな文章を高校時代に読んでいたら、古典文学の魅力に気付けただろうなという思いを抱いた。でも、思春期に扱うにしては、内容がアダルトだったりヘビーだったり繊細だったりな気もするし、仕方がないか。
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