先生のホンネ 評価、生活・受験指導 岩本茂樹 光文社新書 2010年
人々の学校生活の思い出に、望む望まないに関わらず、影響を残すのが教師だ。一体、先生は生徒をどう見ているのか。それを知ることで、先生・生徒・保護者・社会の相互理解が深まれば、それぞれの関係も改善するかもしれない。そんな願いが込められた本書は、架空の公立高校、梓高校を舞台にして、学校の日常の裏を探る。
本書は、梓高校に起こった3つの事件を材料に、先生の思考を追っていく。特に多くの紙面を割いているのが、1年生の間で起こったカチューシャ事件である。校則で女子の髪留めは、黒・紺・茶と決まっているのに対して、黒にグレーの模様が入ったカチューシャ、ベージュのカチューシャを付けてくる生徒が出てきたという事件だ。各教師が個々に様々な理想を掲げている上に、教員間の人間関係も入り混じり、指導にブレが生じてくる。そこを鋭く突き詰める生徒とのせめぎ合いは、なかなかの見もの。
そして、2つ目の事件である、進路指導の問題が取り上げられた後で、再びカチューシャの問題へと移る。しかも、今度のカチューシャ事件は、3年生の男子がカチューシャをして来るというものだった。成績が学年トップの男子生徒がカチューシャをして来たら、注意する必要はあるのか。またもや、職員室はもめる。若干紙幅を使いすぎているのではと思われた第1の事件が、第3の事件を多面的に解釈する上での重要な複線になっていたのだということがわかる。カチューシャ問題を通して、不毛とも思えるような校則指導の現状が非常に鮮やかに描き出されている。
公立の中堅私学校という位置づけの梓高校。教師は皆一様に「生徒のため」という言葉を発している。しかし、本当は何が生徒にとって最良のことなのかなど、簡単に決められるはずがない。また、教師は無意識のうちに「生徒のため」という言葉によって、利害関係の絡んだ自分の行為を正当化しようとしてしまうという筆者の分析は、なるほどと思わせるものだ。後悔するような高校生活を送って欲しくないという熱い想いゆえに、カチューシャを服装の乱れと捉え、徹底的に校則の遵守を訴える先生。生徒の無言の訴えに耳を傾けられず、やたらと国公立大学の受験を勧める先生。2人とも、生徒のためという大義のもと行動しているのだ。本当は、「後悔しない高校生活」がどのようなものかなんて、人によって違うはず。また、国公立大学への進学だけが優秀な生徒としての証しなのだろうか。学校という組織の抱える矛盾が浮き彫りになる。
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