舟を編む 三浦しをん 光文社文庫 2015年
出版社、玄武書房の冴えない営業部員である馬締光也は、言葉への鋭いセンスと辞書作りに必要な資質を買われ、辞書編集部に引き抜かれ、新しい辞書『大渡海』の編集を任される。ここから、15年にもわたる彼と編集部の面々の航海が始まる。
言わずと知れた本屋大賞受賞作で、映画化もされた。なかなか普通の人には知ることのできない辞書編纂の現場を舞台に、そこに関わる人々の個人個人の思いや情熱を描いた人間ドラマである。
この物語には、3人の主人公がいる。まず、物語の中心となる真面目で辞書編集者としての才能に溢れた馬締、チャラ男で仕事はそつなくこなせるが、熱中するのものが見つけられない西岡、そして華の女性ファッション誌編集から一転して辞書編集部に異動されてきた若手女性社員の岸辺である。その3人は、いずれもそれぞれのやり方で辞書製作にやりがいを見出し、自分の居場所や生きる道(多くは恋愛絡みだが)を見つけていくのだった。まったく異なった性格と経歴の3人なのだが、辞書編集部に配属されたのをきっかけにして、辞書作りに惹かれていく姿に、人生の面白さを感じる。
辞書編纂に関する描写も、それをよく知らない人間から見るととても新鮮である。語釈や掲載する語の選択、辞書の紙質など、1冊の辞書が作られる背景にはこんなにも様々なことが時間をかけて検討され、製作者の思いが込められているのだと圧倒される。
辞書は普通、「調べる」ために使うものではあるが、本書をきっかけに辞書を「読む」ということをしてみたくなった。
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