英単語の世界 多義語と意味変化から見る 寺澤盾 中公新書 2016年
英語に限らず、言葉を学んでいく上でやっかいなのが、多義語の存在だ。本書は、多義語が生じる背景を、語の歴史的な変遷を軸に、メタファーとの関連にも注目して紐解いていくものだ。帯に書かれている"a hand of banana"とは、人間の手とバナナの房が類似していることから生まれた表現である。時にsuitはそれを着ている人物の代わりに用いられることもある。多義語が発生するメカニズムの説明は、それだけで十分に興味深いものではあるが、そのメカニズムを明らかにし、単語の学習に役立つようにという意図も本書にはあるようだ。
また、本書のもう1つの側面は、ある意味領域を表すためにどんな単語が使われてきたかという研究領域である名義論や、メタファー研究についての入門書でもあるという点だ。特に名義論の分野からは、トイレを表す表現や、義務を表す表現の変遷を見ることができ、英語教育の点からも非常に有益な情報が多かった。現在の英文法教育で教えられている事柄の中には、現在の使用から考えると頻度が低かったり、他の表現に移り変わりつつある文法事項が多々あるそうだ。最新の状況をコーパスなどのデータを用いて分析した研究に敏感であることの重要さに気づかされる。
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