これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学 マイケル・サンデル(著)鬼澤忍(訳) ハヤカワ文庫 2011年
日本に哲学ブームを巻き起こした火付け役である、マイケル・サンデル教授のベストセラー著作。身近な話題から入り、いつの間にか現代社会が抱える問題の核心へと誘う構成の巧みさ、様々な哲学的思索に対する切れ味の鋭い考察が魅力である。
哲学思想を歴史的な文脈で辿るのではなく、「正義」ということについて考えるのに必要な順序で辿ることによって、各立場の利点や問題点が詳らかになっていく。読み進めるにつれて、なぜ各思想がその順で紹介されていたのかがわかっていき、著者の構成の巧みさに唸らされるばかりであった。身近な問題から始めていくが、論点はどんどん深くなっていき、思想を体系付けて理解できる。最終的には、公共の正義とは何であるかという、未だはっきりとした答えの出ていない問題について考えることになる。
主にアメリカやイギリスの社会で起こった問題が具体例として挙がっていくが、日本とて、それらの問題からは無関心ではいられない。富の格差は許されるのか、お金を払うことで兵役が免除されても良いのか、アファーマティブ・アクションの是非、同性愛の結婚、戦争責任といった問題が、議論を深めていけば、必ずや誰もに関わる問題となることがよくわかる。現代を語るために、本書で語られた視点は無視できない。
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