個性をモノにする 岡島秀樹 ベスト新書 2012年
メジャーリーグ移籍直後は、チームメイトから松坂の話し相手くらいにしか思われなかった岡島秀樹。しかし、結果を出すにつれて首脳陣からの信頼を得て、いつの間にかボストン・レッドソックスの中継ぎの中核を担うまでになっていった。子どもの頃からメジャーにあこがれていたわけでもなく、30代になってからの突然の移籍だったにもかかわらず、岡島はなぜメジャーで活躍できたのか。本人が語る、その秘訣とは。
岡島は、自らが活躍できた1番の理由は個性を武器にした点だと語る。ボールを手から離す瞬間に捕手を見ないという独特の投球フォームが特徴の岡島は、これまで何人もの人から、フォームを是正するよう注意されてきた。しかし、岡島は自分のフォームを認めてくれる人々にも出会い、その人たちから励まされて、野球を続けてきた。本書の中でたびたび触れられるエピソードから、個性を伸ばすことの難しさ、個性を認め、支える人の重要さを実感することができる。
本書のもう1つのテーマは、メジャーリーグへの適応という観点であろう。多くの日本人がメジャーリーグに挑戦し、様々な壁にぶつかって、辞退しているのが現状だ。岡島は盛んに、野球は仕事だと語る。スポーツ選手というと、いかにも好きなことを仕事としているという印象があるが、岡島が持っている野球観は、非常にビジネスライクな面が強い。結果にこだわるプロ意識は忘れないなどの考え方が、アメリカ流の野球とマッチしていたのだということがよくわかった。また、家族を養うという意識がとても強く、普通のサラリーマンに近い思考をしている点も面白い。それゆえに、ビジネスマンにとっても参考になる記述は多い。壁にぶつかったときの考え方、慣れない環境への適応など、人が職業とともに生きていくのに必要な術を随所で語ってくれる。
メジャーへの適応については厳しいことを語りつつも、自分の置かれた境遇で悩んだこと、うまくいかなかったこと、気にせずに割り切ったことについても触れている。その意味では、プロとして意識すべきことについて語っている部分と矛盾しているとも言えるかもしれないが、1人の職業人が余すことなく心境を語ってくれたと考えれば、むしろ人間味があって良い内容かもしれない。
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