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# 『職業は武装解除』
2020/03/30 12:32
職業は武装解除 瀬谷ルミ子 朝日文庫 2015年



著者は、紛争地帯で兵士の武装解除(DDR)に取り組んでいる。20代の頃からNGO、国連の職員として働き、奮闘してきた軌跡の記録である。

戦争や内戦で日常生活が脅かされた人々を救いたいと言っても、そこには大きな壁が立ちはだかる。政府が実質的には機能していなかった地域では、社会制度を構築しなければならないし、市井の人々が自立していくためには、経済や教育の支援が欠かせない。また、2度と悲しい争いが起こらないようにするには、兵士がきちんと社会復帰できなければならない。著者は、兵士の社会復帰を通して紛争地域の支援を行うことを専門としている。兵士から武器を取り上げ、戦闘以外の仕事ができるように就業の支援を行うことがどれほど重要なことなのか、私は本書を読むまで知らなかった。このような仕事の専門家は日本ではなかなかおらず、世界でもこのような分野を学べる大学はほとんどないらしい。著者は、人がやっていないことで自分が貢献できる分野はどこか探し続け、このような専門にたどり着いた。

紛争の現場では、きれいごとでは済まないことも多く、平和と一言で言っても、その実現には気の遠くなるような手間と時間と人々の思いが必要である。当たり前のことだとは思うが、本書を読んでいると、それを嫌というほど実感してしまう。それでも、著者はきっと今日も平和の実現のために、紛争地に立っているのだろう。

国際平和について考えたいと強く願う人はもちろん、進路について悩む高校生や大学生にも一読の価値がある本だと思う。
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CATEGORY [ エッセイ ] COMMENT [ 0 ]
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# 『ルポ トランプ王国2』
2020/03/25 13:21
ルポ トランプ王国2 金成隆一 岩波新書 2019年



同著者の前作に続き、「なぜ人々はトランプを支持したのか?」という疑問を追う取材の旅をまとめたもの。選挙前の取材からは4年の年月が経過し、再び大統領選の行方が注目される時期に来ている。時の経過によって、当時のトランプ支持者は引き続き支持者であるのか、それとも支持を離れようという心情にあるのか。

前著と同様、取材によって浮かび上がってくるのは、かつては自分の身一つで努力すれば実現できたアメリカンドリームが夢のようになってしまった現在を憂える白人労働者の姿だ。再びトランプを支持するという人物もいれば、もう投票しないと言っている人物もいる。どちらにしろ、現在のアメリカ白人労働者が置かれた立場が、アメリカ社会の分断に大きな影響を与えていることは確かだ。

また、前回の取材ではあまり大きく扱われなかった支持層についても、今回は取材が及んでいる。それは、戦争の帰還兵と、バイブルベルトの住民だ。彼らが取材に応えて話す様子から、一筋縄では理解できないアメリカ社会の複雑さが露になる。

何を自己責任とするか、何をもって平等・公平とするのか、どうすれば希望を持って生きられる世の中が実現するのか。アメリカ大統領選という1つの現象から、アメリカに留まらない様々な普遍的な問題があぶりだされていく。新型コロナウイルスの影響で、経済の先行きがますます不透明になっている今、雇用や労働、教育、健康の問題をめぐって社会の分断が深まらないよう、これらの問題を丁寧に考えていくためのヒントとしても、一読に値するのではないだろうか。

CATEGORY [ 社会・経済 ] COMMENT [ 0 ]
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# 『英語バカのすすめ 私はこうして英語を学んだ』
2020/03/22 15:31
英語バカのすすめ 私はこうして英語を学んだ 横山雅彦 ちくまプリマー新書 2020年



90年代からゼロ年代の予備校で一世を風靡した「ロジカル・リーディング」の生みの親であり、自らを「英語バカ」と認める著者による、自らの英語学習史をまとめたものである。著者は予備校講師としてももちろんのことながら、全国的に見ても類稀なる英語の使い手であり、その学習法や心得については気になっていた。

現在は大学の准教授という立場で大学生に英語を教える著者は、初めて英語に接した小学校高学年から現在までの並大抵ではない「英語バカ」としての生き様を、余すことなく書き尽くしている。海外経験ゼロで英語を習得したその方法は、持ち得る資源を全力で活用して英語を身に付けようと努力し、英語を使う実践の場に立たされたら、そのチャンスを最大限に利用するということだろうか。著者は生まれ故郷をたびたび「片田舎」と表現するが、そこにも英語の世界に触れるチャンスは転がっていて、それをしっかりと手にした行動力には脱帽である。

また、著者が同年代の日本人の中ではおそらくトップレベルの英語力を持っていたであろうことは、英語弁論大会の受賞歴からわかるのだが、自らは到底及ばないと認める英語の使い手に出会い、その人からも学んできた積み重ねも大きいと思う。自分でも相当に英語ができると思っていた著者だが、だからこそ自分よりはるかに卓越した人物をしっかりと嗅ぎ分け、その人物から謙虚な姿勢で学ぼうとする。著者はそのような方々を「ロールモデル」と呼んでいるが、人生の中で良い時期に適切なロールモデルを見つけて学ぶという部分は、大いに参考になった。ある意味、著者が出会ってきた英語の達人たちの歴史を綴った書という見方もできる。

読めば読むほど、英語の果てしなさを感じ途方に暮れそうになるが、それ以上に、果てしない道に向かう勇気がもらえる。英語をやってきた者の端くれとして、さらなる研鑽を目指したい思いだ。

CATEGORY [ 英語 ] COMMENT [ 0 ]
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# 『全盲の弁護士 竹下義樹』
2020/01/04 14:21
全盲の弁護士 竹下義樹 小林照幸 岩波現代文庫 2019年



中学生の時に視力を失い、その後日本初の全盲の弁護士として活躍している竹下義樹氏。大学受験に挑戦し、大学在学時に法務省に請願して司法試験の点字受験を実現させるまでは、死闘とも言える日々を過ごした。9回目の受験で合格率2%未満の難関を突破して弁護士となった後は、弱者の声を拾って法廷に届けるという信念を貫き、多忙な生活を送っている。そんな彼の人生を記録したのが本書だ。単行本の刊行からおよそ15年の日が経過したのを受けて、文庫版のあとがきでは平成後半から令和にかけての活躍ぶりも書かれている。

読んでいて、圧巻とはこのようなことを言うのかと思った。竹下氏の幼少期から始まり、全盲となった当時の様子、大学受験、司法試験受験、司法修習生としての日々、弁護士として活躍など、苦難の中にも支えになってくれる人を得ながら困難を乗り越えていく姿が鮮やかに書かれていて、読み始めるとページをめくる手が止まらない。

特に社会保障をめぐる訴訟では、竹下氏が弁護団を率いて社会史に残る画期的な判例を残していった事件が多い。時に依頼者は、他の弁護士では無理だと言われた案件を藁にも縋る思いで依頼してくることもある。画期的な判例の背景には、竹下氏が依頼者の言葉にじっと耳を傾け、自分が何とかしなければという責任感に燃え、依頼を引き受けていったという姿があった。社会保障をめぐって自治体を相手取った裁判や、暴力団の組長に使用者責任を問う裁判は、一読者としても手に汗握るしびれるような展開である。

CATEGORY [ 障害 ] COMMENT [ 0 ]
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# 『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』
2018/08/12 23:50
AI vs. 教科書が読めない子どもたち 新井紀子 東洋経済新報社 2018年



人工知能が世界的に注目され、その開発に世界中のIT企業はしのぎを削っている。人工知能によって便利になった世の中を想像する楽観論がある一方で、AIが人間の力を超えるのではないかと恐れられているのも事実だ。今、AIに何ができるところまで研究や実用化が進んでいるのか。そして人類の未来に起こる問題は何か。

筆者は、AIは言葉の意味を理解しているわけではないのだから、「シンギュラリティ」など到来することはないと主張する。それは筆者が中心となって行っている「東ロボくん」プロジェクト(AIの東大合格を目指すプロジェクト)から明らかだという。AIは文章読解で大苦戦している。これが本書の前半部分の概要だ。

しかし、筆者はAI楽観論者でもない。よく、AIが活躍する社会では人間にしかできない能力を発揮することが大事だと言われている。だが、筆者の研究チームが行った研究の結果からは、ほんの一握りを除いて、日本人の読解力がAIレベル、もしくはそれにすら達していないということが判明したのだ。しかも、個々の読解力の差を十分に説明できるだけの因子は未だ発見されておらず、危機感を持つ教育現場で検証中だという。

本書を読んでいると、AI技術の基本的なことがわかるのはもちろん、教育や経済など、様々な問題に対する考えや意見が頭の中を目まぐるしく駆け巡った。それだけ考えさせられる刺激的な1冊だった。

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# 『いじめを生む教室 子どもを守るために知っておきたいデータと知識』
2018/08/12 23:07
いじめを生む教室 子どもを守るために知っておきたいデータと知識 荻上チキ PHP新書 2018年



「ストップいじめ!ナビ」の代表理事である筆者が、いじめ問題について、これまで蓄積されてきた知見をデータに基づいて示し、いじめ防止において何が大切か述べた本。「いじめの深刻化→道徳教育の充実」という図式は正しいか、いじめが起こりやすい場所はどこか、いかなる対策が有効かなど、単なる感情論に終始するのではなく、データから言えることを考えていく。

特に興味深いのが、「ご機嫌な教室」という概念だ。いじめは多くの場合、児童・生徒がストレスを感じる環境下で起こるという。それならば、ストレス要因を除き、児童・生徒が心地よく過ごせる環境を整備することがいじめの抑制につながるということになるのだ。

筆者が主張している、市民社会において許されるかという視点は非常に大事である。いじめを、単なるふざけ合いやからかいと思わず、将来的にハラスメントやヘイトスピーチのような人権侵害にもつながる恐れがある問題として考えれば、これは学校教育の場に留まらない重要な問題だ。

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# 『全解説 英語革命2020』
2018/06/09 18:16
全解説 英語革命2020 安河内哲也 文藝春秋 2018年



大きな教育改革が起こる2020年度、日本の英語教育も大きな転換期を迎える。それは、これまでの「読む」に圧倒的な比重が置かれていた大学入試のあり方を見直し、「話す」も含めた4技能を図る試験に転換するという、革命的な出来事である。筆者は、20年以上予備校の教壇に立ち、旧来型の授業を実践しつつも、やがて4技能試験の導入に向けて政府の有識者会議の委員まで務めるようになった人物である。本書は、20年以上大学入試の英語と関わり続け、その改革を目指してきた人自身が、英語教育改革を解説したものである。

中学・高校の授業のやり方は、基本的には「受験があるから」という視点を無視することはできない。特に難関大学の入試傾向が与える影響力は計り知れず、大学の出題傾向がそのまま高校の授業に影響する。ならば、中等教育における出口に当たる大学入試を変革することで、中等教育における英語教育にも変革をもたらそうというのが、改革の趣旨である。

本書は、改革における思想、新試験の勉強法、予想される問題点、英語教師の役割の見直し、塾・予備校の在り方など、多岐にわたる事項について、平易に解説されている。改革に関する基本情報がよくわかる。

難解な文を読解する英文読解こそ思考を鍛えるという反論が予想される。しかし、私は4技能はそれぞれにつながっているという考えを持っている。どの技能であっても、1技能だけ勉強するというスタイルには限界があり、複数の技能を統合することで、それぞれの力が伸びるものだと持っている。会話を扱えば文法力が落ちるというほど単純なことではないだろう。また、各大学別の対策をやるのではなく、本質的な力をつければ良いだけという指導方針で授業に向かえる利点もある。その点では、4技能試験の導入に賛成である。

一方で、「英語の授業は英語で」を実践してきた教師も、改めて授業方法を見なおす必要はあると思う。生徒はどこまで理解できていたか。生徒は本当に活き活きと活動していたか。英語で授業することが目的となり、生徒の実力を伸ばすという視点が欠けていなかったか。本書で述べられているように、英語教師の役割はスポーツのコーチと似ているのだ。やり方次第では、一気に英語嫌いを増やしかねないほどの危険性をもった入試改革であるということを忘れずにいることが大切であろう。

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# 『アクティブラーニング 学校教育の理想と現実』
2018/06/09 17:41
アクティブラーニング 学校教育の理想と現実 小針誠 講談社現代新書 2018年



2020年の教育改革において注目すべきキーワードが、「主体的・対話的で深い学び」である。いわゆる「アクティブラーニング」と称される授業は、一方的な知識の受け渡しに終始する授業ではなく、学び手自身が活動し、知識を活用するという視点を重視した授業である。この教育法は、すでに教育に携わる人々のみならず、世の中の大きな注目を集めている。そんなアクティブラーニング礼賛社会に対して警鐘を鳴らすのが本書である。では、何が問題か。

筆者は、アクティブラーニングの特徴とされる、コミュニケーションを中心におく授業スタイルが抱える問題点を指摘する。グループ活動による学び合いを重視した学習で、コミュニケーション弱者が取り残されてしまわないか。ただ活動させることで、表層的な学びしかできない結果にならないか。本当の意味での深い学びに到達した生徒が、現代の社会の在り方に対して批判的な結論に到達した場合に、社会は寛容でいられるか。

どんな教育方法であっても、利点と欠点はあるはずだ。アクティブラーニングを歴史的な観点から分析する本書を読むと、学力観と教育法に関する議論は常に起こってきたものであり、教育改革のたびに振り子が振れては振り戻されてきたということがよくわかる。

現場で教育に当たる者としては、絶えず自分の教育法について批判的な眼で考えるということを忘れずに、日々の教育に勤しむ。結論めいたこととなると、それくらいしかないのだろうか。

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# 『考える障害者』
2018/03/25 16:59
考える障害者 ホーキング青山 新潮新書 2017年



2016年から、障害者差別解消法が施行され、さらにはパラリンピックへの注目度も高まり、障害者に対する社会の見方は少しずつ変化しているように思える。しかし、ずっとお笑いの世界で、何となく社会からはタブーとされているような障害者をネタにした芸に挑み続けてきた筆者からすると、障害者に対する議論は、極論や遠慮がちな物言いが多く、どこか釈然としない。そんな思いから綴られたのが本書である。

障害者に対して、どこまで社会的な資源を使うべきか。24時間テレビやバリバラは何が問題なのか。そして、障害者の存在意義についてはどう考えればよいのか。筆者は、本書の中で明確な結論にはたどり着いていないが、これらの問題について当事者の立場だからこそ語れる言葉と視点で、考えあぐねる。本書で挙げられたテーマのどれもが、社会において深く議論することが避けられてきたものである。その分野に、筆者は果敢に挑んでいく。

さすがの言葉の名手とあって、筆者の語りは滑らかで、読み手はどんどん読んでいける。しかし、そのスピード感とは裏腹に、それぞれの問題は、議論すればそのための時間がいくらでも必要となるであろう。私自身、答えの見つからない問題を前にして、茫然たる思いにもなった。でも、これだけは言える。読後は筆者の語りが私の頭の中を巡り、どこか今までとは違う発想や思考で満たされ、障害者について考えるための1つの道筋を得た。

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# 『女子高生 制服路上観察』
2018/03/25 16:02
女子高生 制服路上観察 佐野勝彦 光文社新書 2017年



筆者は、学生服メーカーの研究職に就いている。学生服の世界は意外と奥が深く、学校、メーカー、生徒の3者の思惑がダイナミックに影響し合って成り立っている。学校側は生徒の着崩しを憂慮し、メーカーは1校の採用が命運を分けるというフィールドで努力し、生徒は生徒なりの思考とルールで制服を着こなす。これらがまったくうまく噛み合わないとき、3者ともに残念な結果になる。そのような最悪な事態を防ぐべく、筆者は路上で高校生の制服の着こなしを観察し、果敢にインタビューし、研究し続けてきた。その成果がまとめられたのが本書である。

教師や保護者の立場からすれば、制服の着崩しに対して嘆きたくなることもある。メーカーだって、せっかくのデザインが活かされない着方を見れば、悲しくなるであろう。しかし、その裏に隠れた生徒側の心情を丁寧に調査していくと、興味深い現象がわかってくる。例えば、なぜスカートは短い方が好まれるのか。柄はチェック柄が好まれるのか。生の声を聞き、観察を繰り返すことで、筆者はある答えにたどり着いた。

教育業界に関わる人間が読んでも面白く、高校生の服飾について関心がある人間が読んでも発見があり、若者文化について考えたい人間にも一読の価値がある。本書を読めば、普段何気なく目にしていた制服姿の高校生に対する見方が変わる。

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