全解説 英語革命2020 安河内哲也 文藝春秋 2018年
大きな教育改革が起こる2020年度、日本の英語教育も大きな転換期を迎える。それは、これまでの「読む」に圧倒的な比重が置かれていた大学入試のあり方を見直し、「話す」も含めた4技能を図る試験に転換するという、革命的な出来事である。筆者は、20年以上予備校の教壇に立ち、旧来型の授業を実践しつつも、やがて4技能試験の導入に向けて政府の有識者会議の委員まで務めるようになった人物である。本書は、20年以上大学入試の英語と関わり続け、その改革を目指してきた人自身が、英語教育改革を解説したものである。
中学・高校の授業のやり方は、基本的には「受験があるから」という視点を無視することはできない。特に難関大学の入試傾向が与える影響力は計り知れず、大学の出題傾向がそのまま高校の授業に影響する。ならば、中等教育における出口に当たる大学入試を変革することで、中等教育における英語教育にも変革をもたらそうというのが、改革の趣旨である。
本書は、改革における思想、新試験の勉強法、予想される問題点、英語教師の役割の見直し、塾・予備校の在り方など、多岐にわたる事項について、平易に解説されている。改革に関する基本情報がよくわかる。
難解な文を読解する英文読解こそ思考を鍛えるという反論が予想される。しかし、私は4技能はそれぞれにつながっているという考えを持っている。どの技能であっても、1技能だけ勉強するというスタイルには限界があり、複数の技能を統合することで、それぞれの力が伸びるものだと持っている。会話を扱えば文法力が落ちるというほど単純なことではないだろう。また、各大学別の対策をやるのではなく、本質的な力をつければ良いだけという指導方針で授業に向かえる利点もある。その点では、4技能試験の導入に賛成である。
一方で、「英語の授業は英語で」を実践してきた教師も、改めて授業方法を見なおす必要はあると思う。生徒はどこまで理解できていたか。生徒は本当に活き活きと活動していたか。英語で授業することが目的となり、生徒の実力を伸ばすという視点が欠けていなかったか。本書で述べられているように、英語教師の役割はスポーツのコーチと似ているのだ。やり方次第では、一気に英語嫌いを増やしかねないほどの危険性をもった入試改革であるということを忘れずにいることが大切であろう。