あの歌詞は、なぜ心に残るのか Jポップの日本語力 山田敏弘 祥伝社新書 2014年
日本語では、助詞や助動詞が意味を伝達する上で大切な役割を担っているにもかかわらず、学校教育の過程ではそれほど大きな取り扱いがなく、個々の意味や役割について深く考えることもなく大人になった人も多いのではないだろうか。また、いわゆる「若者言葉」とでも言われるような「乱れた」日本語について、そのような表現が生まれた背景を文法的に考えてみた人はどれだけいるのだろうか。本書では、Jポップの歌詞を日本語文法という視点から分析し、表面的な見方では見逃してしまいそうな歌詞に込められた深い意味を分析しようという探究がなされる。
本書を読んでいると、たった数語である助詞や助動詞、普段何気なく使っている「~してくれる」などの表現の持つ意味の大きさ、それらが表わす深遠な意味について感嘆してしまう。文法的な分析が主であるので、各表現の意味について体系的な分析指標を得られるわけではないが、「こんな視点もあったのか」と思わされるような指摘の数々を読むにつれ、身の回りに溢れるJポップの歌詞に対する見方が変わるような気になる。
また、本筋以外であるにもかかわらず魅力的なトピックを扱っているのが全5本のコラムである。鼻濁音や特殊なルビに対する筆者の意見は興味深い。
文法を扱えば必ず出てくるのが、「間違った用法」である。ら抜き言葉をはじめ、現代を歌い上げるJポップにおいてはしばしば「今風の」言い方が用いられていて、それを誤りだとか、言葉の乱れだとか指摘するのは簡単なことである。しかし、筆者はあくまで言語学者としての立場を貫き、新しい表現が生まれる合理的な理由を追究したり、興味深い表現だという評価を下したりして、一切批判的な見方はしない。そのような立場が一貫しているからこそ、Jポップの歌詞を現代の日本語を表す鏡として、語の表す本質的な意味を考えたり、文法の果たす役割について考えたりできるのであろう。英語、日本語にかかわらず、言語教育の方法という視点からも、本書に学ぶことは多い。
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