源静香は野比のび太と結婚するしかなかったのか 『ドラえもん』の現実 中川右介 PHP新書 2014年
ドラえもんを切り口にすると、実に多様な問題について考えることができる。しずかちゃんという存在はフェミニズムの問題とは切っても切れない縁があるし、のび太はスクールカーストの最下層に位置する人間であろう。作品の舞台となる郊外は、どんな意味を持っているのか。こういった社会学的な議論はもちろん、ジャイアンとスネ夫の関係を国内や国外の政治世界に当てはめてみたり、ドラえもんの作品構造について分析してみたりと、縦横無尽にドラえもんという作品について語った本。
中でも特に驚いたのは、小学館の学年誌におけるドラえもんの描き方である。作者の藤子・F・不二雄は、それぞれの年代が幼稚園から小学校と学年を経ていくのに合わせて描いていたというのだ。すなわち、小学校1年生向けには、小学校1年生に相応しい考え方や性格ののび太が登場し、読者の学年が上がるにつれてのび太の年齢も上がり、話題も社会的・科学的に高度になるように描いていたのだ。特に初期の頃の作品では、『小学六年生』の3月号には、のび太もこれから中学校に上がるかのような記述があったという。アニメやコミックスでおなじみの、ずっと小学4年生か5年生のままであるのび太とは異なるのび太が描かれていたのだ。しかも、それを使い回さずに各年代が各学年で異なったストーリーを読めるように配慮したというのだから、驚きである。年代によって学年誌で読んできたドラえもんが皆違うのだ。現代の作家でここまでのことができる人間はいないであろう。
慣れ親しんだ物語に新たな見方が与えられ、また久々にドラえもんを読んでみたくなった。
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