東京23区教育格差 昼間たかし・鈴木士郎 マイクロマガジン社 2016年
近年一気に火が付いた東京23区の格差議論の中で、教育の分野に絞った分析をしたのが本書である。筆者は語る。本当なら、出身地域によって教育水準に格差があったり、教育環境に差があったりするのは問題であるが、先行きの見えにくい世の中で子育てする者にとって、子どもの教育は待ったなしの問題であると。だからこそ、自分の子どもを育てるのに適した環境を見つけるためにも、23区の現状について理解しておこうというのが、本書がそのそも持っているコンセプトなのだ。だから、本書を読んで徒に踊らされるのも、地域の格差を公表し、よりよい地域を選択することを勧めるとはけしからんと怒るのも、執筆の意図に反した行動であろう。もちろん、本書には登場してこない東京多摩地区、神奈川県、埼玉県、千葉県に居住するという選択だってあり得るのだ。結局のところ、保護者がどんな子育てをしたいと思うかという軸が重要なのだと思うばかりだ。
結構な数の取材に基づいている本書は、教育熱心な地域に潜む危険さと、教育環境として厳しいと言われる地域独自の努力を同時に取り上げ、判断材料としてバランスを保てるようにしている。大学進学までのルート別シミュレーションから、どこで節約し、どこでお金をかけるかについて考えられるようなヒントも多く提示されている。
一般的に言われる「住みたい街」の人気と、教育環境の良さは必ずしも比例するわけではないのがよくわかる。様々なメディアを通して、どこに住むかが重要な選択だと聞かされる今、教育という軸も加えて居住地を考えることで、また新たな街選びができることだろう。
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