尊敬されない教師 諏訪哲二 ベスト新書 2016年
日本語では、言葉のうえでは教師に対しては尊敬語を使うようになっているが、実際の気持ちとして、教師に尊敬の意を持つ者は少ないのではないだろうか。筆者が教師として過ごしながら見てきたのは、まさに教師が尊敬されなくなるに至っていく歴史そのものだった。筆者が自らの高校教員としての日々を振り返りながら、教師が尊敬されなくなった原因や、そのような時代に必要となる教員としての心得、社会が持つべき視点などについて縦横無尽に語ったのが本書である。
筆者が高校教員となったのは、ちょうど団塊世代が高校へ入学してくる時期であった。その後の高度経済成長の時期を経て、日本は経済的な観点(すなわち個人の利益)から物事を見るという習慣が強くなり、その影響を教育も免れることができなかった。学校と家庭・生徒との関係は、ちょうど商取引上の対等な契約を結んだような関係となり、教育が社会から贈与されるものであるという考えは消え失せた。そこに教師が尊敬されなくなった理由があり、生徒や家庭は教師や学校に対して意見することが増えていったのである。教育の機能不全と思えるような事態も急増していった背景もここにある。
筆者は、教師が特別優秀な人間がなる職業ではないと認めたうえで、それでも現場の教師が極端にレベルが低いとは思っていない。逆に、教師に対して批判的な言説には痛快とも思える反論を行っている。大した権限を世の中から与えられてもいないのに、責任を追及するときだけ教師がやり玉にあがるという見方など、なるほどと思える。その他にも教師として必要な処世術や考え方など、参考になることは多い。「尊敬されない教師」としてどう生きていけば良いのか、考える手立てを得られる書となるであろう。
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